人的資本・ウェルビーイング経営

AIで仕事は変わるのに、社内では動けない ― Workday報告書に見る異動と昇進の停滞

AIで仕事の中身が変わっているのに、社員は社内で新しい仕事へ移れているのでしょうか。2026年10月5日にWorkdayが公表した「Global Workforce Report」の数字から、社内での異動と昇進の動きを読んでいきます。

人を減らすより、今いる社員を生かすと考える経営層が多い

今いる社員をもっと生かせると考える経営層は40%

Workdayの報告書は、社員と経営層への調査と、人事や求人のデータなどをもとにしています。世界の社員と経営層6,001人への調査では、AIによって今いる社員の力をもっと引き出せると考える経営層が40%で、人員が減ると考える経営層の28%を上回りました。

Workdayは、AIは仕事をなくすよりも、今ある仕事の中身を書き換えていると見ています。

求人で求められるAIスキルは「使う」から「作る」へ

求人の中身も変わっています。Workdayの採用システムを使う約550社の求人データでは、簡単なプロンプト入力のような基礎的なAIスキルの需要は、2026年1月をピークに25%減りました。一方で、AIツールを作る、業務を自動化するといったスキルの需要は、2025年9月から2026年7月にかけて51%増えています。

基礎的なAIスキルの求人需要は2026年1月のピークからその後の数か月で25%減り、AIツールの構築や業務の自動化のスキルは2025年9月から2026年7月に51%増えたことを示す図
求人で求められるAIスキルの変化(Workday「Global Workforce Report」の公表資料をもとに筆者作成)

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では、仕事の中身が変わった社員は、社内で新しい仕事へ移れているのでしょうか。

社内異動は57%の企業で減り、昇進もほぼ横ばい

社内異動が前年より減った企業は57%

Workdayの人事システムを使う従業員250人以上の企業のデータを前年と比べると、社内で別の仕事へ移る動きが減った企業は57%でした。昇進率は、世界全体でほぼ横ばいです。

一方、社員への調査では、この1年で勤め先が組織再編を経験したと答えた人が4割近くいました。仕事の中身も組織の形も変わっている一方で、社内異動は多くの企業で減り、昇進率も伸びていません。

社員の約半数は、社内での異動を試みていない

この1年で社内異動を試みなかった社員は、約半数でした。そのうち27%は、社内に魅力的な機会が見えなかったと答えています。

では、社員を社内で動けなくしているのは、何なのでしょうか。

社員が挙げた壁は、移る機会と異動の仕組みにある

社員が挙げた壁を見ると、社内で動けない背景には、本人のスキルだけでは説明できない、移る機会と異動の仕組みの問題が見えてきます。

異動を試みた人が挙げた壁は、採用の停止、上司、選考

社内異動を試みた社員が最も多く挙げた壁は、次の3つでした。

  • 移りたい仕事の採用が止まっていた
  • 上司が異動を後押ししなかった
  • 選考が公平だと感じられなかった

この3つは、いずれも社員本人のスキルだけでは解消できない壁です。移る先があるか、上司がどう関わるか、選考がどう行われるかという、会社の側の仕組みも問われています。

必要なスキルは分かっていても、会社の支援を感じる人は少ない

2026年9月の調査では、成功するために必要なスキルが分かっていると答えた人が79%いました。一方で、勤め先がそのスキルを伸ばす手助けをしていると答えた人は66%で、13ポイントの差があります。

必要なスキルが分かっている社員79%と、会社がそのスキルを伸ばす手助けをしていると答えた社員66%の差が13ポイントあることを示す図
必要なスキルと会社の支援の差(Workday「Global Workforce Report」の公表資料をもとに筆者作成)

※画像はクリックで拡大できます

求人で求められるスキルにも変化があります。同じ求人データでは、マネジメントやリーダーシップのスキルへの言及が7%、研修(トレーニング)のスキルへの言及が13%減りました。Workdayは、この変化を乗り切る助けになるスキルを、企業が求人で言及する頻度がむしろ減っていると指摘しています。

会社に残っていても、つながっているとは限らない

Workdayの人事システムを使う企業のデータでは、自発的な離職率は年に約16%で、2年後も同じ会社にいる社員は約70%です。Workdayは、労働市場の動きが鈍く、会社を移ることのリスクが高く感じられるため、社員が今の会社にとどまっていると見ています。

ところがWorkdayによると、分析した業界ではいずれも、残るつもりの社員は勤め先を人に勧める傾向が低く、公共部門ではその差が11ポイントに達しました。Workdayは、会社に残っていることと、会社に気持ちが向いていることは同じではないと見ています。

では、日本の会社で考えるときは、どこから手をつけられるでしょうか。

筆者の考え:移る先と移り方を、社員から見えるようにする

以前の記事(リスキリングは「受講」から「処遇」へ ― 2026年10月の労政審・人材開発分科会の論点案を読む)では、スキルを定義して処遇につなげる道具として、キャリアラダーを取り上げました。今回のデータからは、スキルを定義するだけでは、社員が社内で動けるとは限らないことが見えてきます。論点は、スキルの定義から、社内で人が移る仕組みの設計へと一段進んでいるように思います。

移る先は、キャリアラダーで見えるようにできる

「社内に魅力的な機会が見えない」という声には、移る先を見えるようにすることで応えられそうです。キャリアラダーに、同じ職種でレベルを上げる道と、隣の職種へ移る道を描き、社内の募集ポストと結びつけておくと、社員は次の仕事の候補を探しやすくなります。

移り方は、社内公募のルールと上司の関わり方で決まる

上司の後押しと選考の公平さは、ルールの書き方で変えられる部分があります。社内公募で上司が異動を止められるかどうか、選考の基準を社員に公開しているかどうかを、一度確かめてみてはいかがでしょうか。

相談の窓口には、法律にある職業能力開発推進者を生かす方法もあります。推進者の業務には、能力開発についての従業員への相談が含まれています。詳しくは、以前の記事(能力開発の計画を全事業所で作る企業は14.6% ― 法律にある「計画」と「推進者」をどう生かすか)で整理しています。

AIで浮いた人を会社の中のどこへ動かすかは、AI経営シリーズの以前の記事(AIで仕事が減ったとき、日本企業は人をどこへ動かすのか)でも考えました。自社の異動や育成の仕組みを見直す場面で、この記事を参考にしてもらえることがあれば幸いです。

【セルフチェック】社員が社内で動けるかを確かめる6項目

社員が社内で次の仕事へ移れる状態になっているかを確かめるための項目を並べました。正解を出すためのものではなく、立ち止まって考えるためのものです。気になった項目だけ拾ってもかまいません。各項目に、考えるときの手がかりを一言ずつ添えました。

  • AIで仕事の中身が変わった職種と、その社員が移れる社内のポストを並べられるか変わった仕事と、移り先の候補を1枚に書き出してみます
  • AI研修を受けた人の、その後の異動や昇格の実績を把握しているか受講の記録と人事異動の記録を突き合わせる方法があります
  • 社内公募で、上司が異動を止められる仕組みになっていないか応募の前に上司の了承が要るかどうかが手がかりになります
  • 社内公募の選考基準を、社員に公開しているか落ちた理由が本人に伝わるかどうかも見てみます
  • 職種を移るときの等級や給与の扱いが決まっているか移ると下がるのか、据え置きなのかを確かめます
  • 学んだスキルを実際の仕事で使うまでに、どのくらいかかっているか研修の修了から、新しい仕事に就くまでの期間を見てみます

 

用語メモ

本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。

▶ Workday

人事、財務、ITの業務向けのクラウドサービスを提供する米国の企業です。この記事の異動や昇進の数字は、同社の人事システムを使う企業の匿名化データにもとづいています。

▶ 社内公募

会社が社内のポストの募集を社員に公開し、社員が自分の意思で応募できる仕組みです。

▶ 自発的離職率

一定の期間に、社員が自分の意思で会社を辞めた割合です。会社都合の退職は含みません。


 

※本記事は、2026年10月5日にWorkdayが公表したプレスリリースをもとに、一般的な情報提供を目的として整理したものです。数字は同社のグローバル調査と、同社のサービスを使う企業のデータによるもので、日本企業だけを対象とした調査結果ではありません。

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