人的資本・ウェルビーイング経営

スキルを見えるようにしたら、社員は社内を動けるのか ― NTTの社内スカウトに見る「探しにいく」配置

社員のスキルをデータで見えるようにすれば、社内の異動は進むのでしょうか。

NTTが2026年10月に始めた社内スカウトの仕組みから、人が社内を動くために何が必要かを考えます。

NTTは、社員の応募を待つだけでなく、探しにいく

66社・約10万人を対象に、組織から直接声をかける

2026年10月22日、NTTはオファー型の人事制度「NTT Group Job Scout」を始めると発表しました。

社員が登録したスキルや経験、キャリアの志向をもとに、グループ各社の組織が、必要な人材に直接オファーする仕組みです。

対象は、グループ共通の人材管理の基盤を使う66社、約10万人です。NTTドコモ、NTTデータ、NTT東日本、NTT西日本の各グループなどが含まれます。10月中に社員の希望を募って始めます。

社内公募では、3年で約2,100件の異動があった

NTTグループには、すでに社内公募の仕組み「NTT Group Job Board」があります。2023年7月に始めてから3年で、応募は約4,000件、異動は約2,100件にのぼりました。

これは公募の実績で、新しいスカウトの成果ではありません。公募がすでに動いているうえで、次の手を打ったことになります。

応募を待つだけでは、届かない人がいる

では、なぜ公募に加えてスカウトが必要だったのでしょうか。

仕組みを提供したビズリーチは、公募は社員の応募が起点のため、自分の可能性に気づいていない社員や、応募に踏み出せない社員もいると説明しています。

講演記事によると、公募に応募した人のおよそ半数は望んだポストへ移りました。ただ、グループ全体で見ると、公募を通じた異動は数%で、90%以上の異動は今も人事部が主導して決めているといいます。

公募が「社員が探す」仕組みなら、スカウトは「組織が探す」仕組みです。二つを組み合わせることで、届く範囲が広がります。

社内公募と社内スカウトの流れの違い
図1 社内公募と社内スカウトの流れの違い(NTT・ビズリーチの発表をもとに筆者作成)

※画像はクリックで拡大できます

では、組織の側が人材を探すには、何が必要なのでしょうか。

探せるように、スキルを細かく、いつでも登録できるようにした

18の専門分野を、職務ごとのスキルに細かく分けた

NTTグループは2026年7月から、国内の主要会社の正社員約16万5,000人を対象に、スキルを管理する新しい基盤を使い始めています。

これまでは、会社が決めた18の専門分野ごとに、専門性の高さを見ていました。新しい基盤では分野をさらに細かくし、それぞれの職務に求められるテクニカルスキルやコンセプチュアルスキル(物事の全体像をとらえ、筋道を立てて考える力)の単位で、スキルを見えるようにしています。

年に一度のチェックから、期中いつでも登録できる形へ

変わったのは、分野の細かさだけではありません。

NTTの発表によると、これまでは専門性の高さを年に一度チェックしてきました。NTTの担当者の講演を伝えた記事によると、それまでのスキル管理の用途は、主に昇格のときの専門性の判定だったといいます。

新しい基盤では、スキルの習得状況を期中いつでも登録し、見えるようにできます。講演記事では、社員本人にも、上長にも、人事にも同じ情報が見えるようになった点が変わったと紹介されています。

年に一度のチェックが今後も続くのか、人事評価とどう関わるのかは、公表されていません。

年に一度だと、その間に身につけたことは抜け落ちやすく、まとめて登録するのも手間になります。資格を取ったその時に登録できれば、情報は新しく、細かいまま残ります。

スキル管理の、これまでと新しい基盤の違い
図2 スキル管理の変化(NTTの発表と講演記事をもとに筆者作成)

※画像はクリックで拡大できます

声をかけられるのは、異動の希望を登録した社員

スカウトを受けるには、条件があります。社員自身が今の組織からの異動を希望していることや、入社から3年が経っていることなどです。

ビズリーチの発表によると、社員は異動の希望と制度の利用希望を登録し、組織はその情報をもとに候補者を探します。異動の希望を登録した人の中から探す仕組みです。

では、スキルが見えるようになれば、社員は社内を動けるのでしょうか。

見えるようにするだけでは、異動は起きない

スキルを見えるようにすることは、社内の異動の出発点です。けれども、それだけで人が動くわけではありません。

異動が起きるのは、誰が人材を探し、誰が声をかけ、誰が決めるのかという流れが決まっているときです。NTTの新しさは、スキルの情報を整えるだけでなく、受け入れる組織が、異動を希望する社員に直接声をかける流れを加えたところにあります。

社内で動けない理由は、スキルが見えないことだけではない

以前の記事(AIで仕事は変わるのに、社内では動けない ― Workday報告書に見る異動と昇進の停滞)では、社内で動けない理由として、魅力的な機会が見えないことや、上司が後押ししないことなどが挙がっていました。

一般に、スキルが見えるようになっても、解決しない理由があります。今の上司が後押ししない、送り出す部門が人を失って困る、異動したあとの処遇が見えない。こうした人や制度の側の理由です。

NTTの仕組みは、「機会が見えない」に答えようとしている

一方で、NTTの仕組みは、機会が見えないという理由に応える設計になっています。

社員の側から見れば、自分で探さなくても、思ってもいなかった仕事から声がかかる可能性があります。組織の側から見れば、応募を待たずに、必要な人を探しにいけます。

ただし、スカウトが届くのは異動の希望を登録した人です。異動を考えていない人にまで届く仕組みではありません。

公表されていないのは、上司の関わりと異動後の扱い

発表には、スカウトを受けた社員の今の上司がどう関わるのか、異動したあとの処遇や評価がどうなるのかは書かれていません。

ここは、ほかの会社が同じ仕組みを考えるときに、自社で決めておく必要があるところです。

では、自社で参考にするなら、どこから考えられるでしょうか。

筆者の考え:データより先に、誰が探し、誰が決めるかを決める

スキルの見える化は、システムの導入として進めやすい取り組みです。けれども、異動が起きるかどうかは、そのデータを誰がどう使うかで決まります。

自社で考えるなら、次の順に決めていくのはいかがでしょうか。

  1. 社内の人材を探すのは誰か(人事か、受け入れる部門か)
  2. 声をかけられた社員の今の上司は、どう関わるか(送り出す部門が不利にならないか)
  3. スキルの登録が少ない社員が、見つけてもらえずに不利にならないか

もう一つ、登録を促す仕組みをセットで考えることも大切だと思います。

講演で、NTTの担当者は「タレントマネジメントシステムに情報を投入してほしいと言っても、なかなか投入してもらえません」と話しています。そのうえで、「スキルを登録すれば、それを見た組織から良いオファーが届くかもしれない」と、登録のメリットを伝えているそうです。

ここからは、自社で考える場合の筆者のアイディアです。たとえば、スキルの登録を、資格取得の褒賞金を申請するワークフローの入口にしておく方法があります。社員は褒賞金を申請するついでに、スキルを登録することになります。登録に応じてポイントやギフト券がもらえる、といった後押しも考えられます。

以前の記事(リスキリングは「受講」から「処遇」へ ― 2026年10月の労政審・人材開発分科会の論点案を読む)では、学んだスキルを仕事と処遇につなげる動きを取り上げました。登録したスキルが配置につながる流れができれば、それ自体が学ぶ理由にもなります。参考にしてもらえる場面があれば幸いです。

【セルフチェック】社内で人が動くための6項目

この記事の考え方を、自社の人材配置に当てはめてみるためのチェックリストです。正解を出すためのものではなく、立ち止まって考えるためのもの。気になった項目だけ拾ってもかまいません。各項目に、考えるときの手がかりを一言ずつ添えました。

  • 社員のスキルを、職務の単位で見られるか分野の細かさと、更新の頻度
  • 社員が異動の希望を、気軽に登録できるか公開の範囲と、上司に知られるか
  • 社内の人材を探す役割が、決まっているか人事か、受け入れる部門か
  • 声をかけられた社員の今の上司が、どう関わるか決めているか送り出す側の評価
  • スキルの登録が少ない社員が、不利になっていないか登録の支援
  • スキルを登録したくなる仕組みがあるか資格取得の褒賞金の申請などとつなげる

 

用語メモ

本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。

▶ 社内公募

社内の部署が求人を出し、社員が自分で応募して異動する仕組み。社員の応募が出発点になる。

▶ 社内スカウト(オファー型の人事制度)

人材を求める部署が、社員の登録したスキルや希望をもとに候補者を探し、直接声をかける仕組み。組織の側が出発点になる。

▶ タレントマネジメント

社員のスキルや経験、キャリアの志向などの情報を集めて管理し、採用・育成・配置に生かす取り組み。

 

出典・参考情報



 

※本記事は2026年10月27日時点で公表されている企業の発表と講演記事をもとに、一般的な情報提供を目的としてまとめたものです。制度の詳細は、出典の原文をご確認ください。

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