AIで仕事が速くなると、会社は誰を採り、今いる人をどこへ動かすのでしょうか。Anthropicの社内雇用レポートと日本企業の動きから、若手の採用と社内の配置に起きている変化を読み解きます。
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技術職の採用に占める若手の比率が、3分の1になった
AI開発企業のAnthropicは2026年10月16日、自社の雇用と仕事の変化をまとめた報告書を公開しました。人の仕事の変化は以前の記事(AIエージェントの稼働時間が社員の6倍になった会社で、人の仕事はどう変わったのか)で紹介しましたが、報告書は採用と配置の変化も示しています。
若手の採用比率は、27%から9%に下がった
2025年初め以降、技術部門の新規採用に占める若手の比率は27%から9%に、在籍者に占める若手の比率は21%から14%に下がりました。若手向けの求人は、2025年12月以降に特に大きく減っています。
この変化は2026年1月、Claudeを最もよく使う技術チームから話題になりました。コードを書く、不具合を見つけるといった仕事を、Claudeに任せられるようになってきたためです。

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技術職の採用は、数としては増え続けている
下がったのは「比率」で、会社の急拡大に合わせて、技術職の採用そのものは数としては増え続けています。それでも2026年4月の調査では、マネジャーの過半数が「AIのために求めるスキルが変わった」と答えました。AIのために採用を減らしたと答えたのは、機械学習のマネジャーの約3分の1、ソフトウェアエンジニアのマネジャーの約5分の1です。報告書は傾向として、Claudeを複雑な仕事に使う職種ほど、2026年1月から7月にかけての若手の人数の伸びが小さいことも示しています。
では、若手の採用比率が下がるなか、会社が採用で重視する力はどう変わっているのでしょうか。
採用の基準と配置の仕方が、同時に変わり始めた
Anthropicでは、技術職の採用に占める若手の比率が大きく下がり、採用の評価では、専門知識に比べて自律性や判断力がより重視されるようになりました。AIで仕事が変わる社員については、社内の別の仕事へ移すことを優先しています。ただし、この仕組みだけでは、若手の採用が細っていることに直接答えることはできません。
面接で増えたのは、自律性と判断力への言及だった
報告書は、2024年以降に採用した数千人分の面接評価のコメントを自動で分類しました。AIツールの使いこなしに触れた評価は、2024年には技術職で約5%、非技術職で約7%でしたが、2026年にはそれぞれ3倍、4倍になっています。
技術職で最も増えたのは、自律性と判断力への言及で、専門知識に触れる比率は下がりました。非技術職でも、顧客や会社の使命への姿勢に触れる評価が増え、実行力への言及が減っています。あるマネジャーは「モデルの得意・不得意はこれからもばらつく。だからチームの人には、領域をまたいで動けることを求める」と話しています。
社内で部署を移る確率は、前年の1.5倍になった
在籍1年以上の社員が、ある月に部署を移る確率は、2026年は2025年より50%高くなりました。チームごと移った例もあります。Claude.aiのあいさつ文などを書いていた文章チームは、エージェントに文章を書かせる仕組みを作ったあと、チームごとAIへの指示文や評価用の課題を書く仕事に移りました。「言葉で人を動かしていた書き手が、今は言葉でClaudeを動かしている」と、報告書はこのチームの変化を紹介しています。
Anthropicは、こうして仕事が変わっていく社員を、どう受け止めようとしているのでしょうか。
Anthropicは、社内で動かす仕組みを作り始めた
仕事が変わる職務を、早めに見つける仕組みを作る
Anthropicは、AIで仕事が大きく変わりそうな職務を早めに見つける「早期警報」の仕組みを立ち上げています。職務ごとの需要や生産性の指標を、AIの能力や利用状況と突き合わせ、仕事が動き始めた職務を見つけます。見つけたら、その職務の人を、スキルが近く、AIの影響がまだ小さいとみられる仕事へ移し始められるようにする狙いです。
外から採る前に、中で動かすことを優先している
AIで新しい仕事が出るたびに外から採っていては追いつかない、というのが報告書の考え方です。社内で動かすことを優先すると、AIを人件費を下げるための置き換えではなく、新しい製品や市場をつくる方向で考えるようになる、とも見ています。社員の多くが株式を持ち、AI導入がうまくいくことに金銭的な利害を持っていることも、同社ならではの条件です。
この仕組みは、採用されなかった若手には届かない
報告書は、この仕組みの限界も率直に書いています。今いる社員を社内で動かすと約束すると、新しく人を採ることに慎重になりかねません。そして、今いる社員を守る仕組みは、そもそも採用されなかった若手には届きません。報告書自身も、どの打ち手も若手の採用が細っていることには直接答えていないと認め、職業訓練や所得の支えといった公的な政策も欠かせないと述べています。
日本の会社では、同じような動きはもう始まっているのでしょうか。
日本でも、採用を絞る会社と人を動かす会社が出てきた
新卒採用を絞る理由に、AIを挙げる企業も出てきた
共同通信が主要111社に聞いた調査では、2027年度の新卒採用を「減らす」企業が23%となり、5年ぶりに「増やす」(16%)を上回りました。減らすと答えた25社のうち、理由で最も多かったのは「デジタル対応を通じた省人化」(4社)で、村田製作所は生成AIの活用などによる業務効率化を挙げています。
みずほは、営業や事務の社員をAIを作る側に回す
人を動かす側の例が、みずほフィナンシャルグループです。同社は2026年10月15日、営業や事務など金融業務の知識を持つ社員を、AIのアプリケーションを作る人材に育てる「みずほAI Bootcamp」を本格的に始めると発表しました。6〜8月の試行に参加した5人は、9月に全員がエンジニア職へ移り、11月からは20人程度に広げます。育成は3か月で、最初の1か月で開発の方法を集中的に学び、残りの2か月は実際の案件で経験を積みます。日本経済新聞は、全世代の社員から希望者を優先して選び、10年後に数千人規模を目指すと報じています。
業務を知る社員に、AIを作るという新しい仕事を担ってもらう点で、Anthropicの社内再配置と共通する発想です。
動かせる会社と動かせない会社の違いは3つある
一方で、社内で人が動けない会社も多くあります。以前の記事(AIで仕事は変わるのに、社内では動けない ― Workday報告書に見る異動と昇進の停滞)で紹介したWorkdayの分析では、社内異動が前年より減った企業が57%ありました。この壁とAnthropic・みずほの打ち手を並べると、違いは3つに整理できそうです。
- 移る先が見えているか:Anthropicは、早期警報で行き先を見つける仕組みを整えています。Workdayの分析では、異動を試みなかった人の27%が、魅力的な機会が見えなかったと答えました。
- 動かすことを、会社が計画しているか:みずほは、対象を段階的に広げる計画を立てています。Workdayの分析では、移りたい仕事の採用が止まっていたことや、上司が後押ししなかったことが壁になりました。
- 移った先で育てる仕組みがあるか:みずほは、1か月の学習と2か月の実務経験を用意しました。Workdayの分析では、会社の支援を感じる人は66%で、必要なスキルが分かっている人(79%)より13ポイント少なくなっています。
若手の最初の仕事を作り直した例は、まだ少ない
一方、AIを前提に若手の最初の仕事を作り直したと公表している例は、調べた範囲では見当たりませんでした。手がかりになりそうなのが、綜合キャリアオプションの取り組みです。同社の発表によると、入社1〜4年目の若手社員約70人が、AIを相手にした商談のロールプレイを3か月で合計約500時間行いました。AIが反復練習とフィードバックを担い、最終的なスキルの確認と合格の判定は、上司が1対1で行います。日経クロステックによると、2025年10〜12月と2026年1〜3月を比べて、新規企業からの初受注は13.3%増えたといいます。
この仕組みの土台は、「良い営業とは何か」を20の指標に分けて言葉にしたことでした。前編で見たAnthropicと同じく、AIを育成に使う前提も、良い仕事を言葉にして残すことでした。
では、若手の入口が細っていくとき、会社は何から手を付ければよいのでしょうか。
筆者の考え:若手の最初の仕事を、もう一度設計する
AIが定型の仕事を担うほど、若手に任せていた仕事は減っていきます。報告書も、役割によっては、社員がもともとスキルを育ててきた手を動かす仕事から離れつつあると書いています。
たとえば経理の新人は、伝票の照合を手でこなすなかで、間違いが起きやすい場所や「この数字は何か変だ」という感覚を身につけてきました。照合をAIが担うようになっても、AIの誤りに気づく目はまだ必要です。AIが持っていくのは作業の方で、見抜く目を育てる練習の機会は、意識して作らなければ一緒に消えてしまいます。
採用の人数を決める前に、若手が判断力を身につける仕事を何にするかを決めておくと、数年後に中堅や管理職の層が空きにくくなるのではないでしょうか。
一案として、AIを若手の練習相手として使い、失敗できる場を先に作ってみてはいかがでしょうか。その前提として、自社にとっての良い仕事を言葉にしておく必要があります。もう一案は、AIの出力を確かめる仕事を、若手が業務知識を学ぶ場として設計することです。確かめるには業務知識が要るので、先輩がその確認を見る仕組みとセットで考えると安心です。
AIは、若手の仕事を減らすことも、若手の練習の場を増やすこともできます。どちらに使うかは、それぞれの会社が決められます。参考にしてもらえる場面があれば幸いです。
【セルフチェック】AI時代の採用と配置の5項目
この記事の考え方を、自社の採用と配置に当てはめてみるためのチェックリストです。正解を出すためのものではなく、立ち止まって考えるためのもの。気になった項目だけ拾ってもかまいません。各項目に、考えるときの手がかりを一言ずつ添えました。
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AIの利用が深い職種で、若手の採用比率がどう変わったかを見ているか人数と比率の両方で見る
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面接の評価項目に、判断力やAIの使いこなしが入っているか評価コメントに出てくる言葉を見る
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仕事が変わりつつある職務を、早めに見つける方法があるか職務ごとの業務量の変化
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社内で異動するとき、上司の判断だけで止まらないか会社として動かす計画があるか
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若手が判断力を身につける仕事が残っているかAIに任せた定型業務の代わりに何をするか
用語メモ
本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。
▶ 若手(ジュニア)
Anthropicの報告書では、技術部門の下位の等級(バンド)の職位を指しています。日本の「新卒・若手社員」とは範囲が異なる場合があります。
▶ 早期警報の仕組み
AIで仕事が大きく変わりそうな職務を、早い段階で見つけるための仕組みです。Anthropicは、職務ごとの需要や生産性の指標を、AIの能力や利用状況と突き合わせて使う仕組みを立ち上げています。
▶ 社内再配置
仕事が変わった社員を、社外に出すのではなく、社内の別の仕事へ移すことです。新しく必要になった仕事を、外からの採用ではなく社内の人で埋める考え方でもあります。
※本記事は2026年10月21日時点の公開情報と報道をもとにまとめたものです。Anthropicの数値は同社の社内データに基づくもので、他の企業にも同じ結果が当てはまるとは限りません。日本企業の取り組みは、各社の公式発表と報道をもとに紹介しています。