人的資本開示で、多くの企業が書けていないのは何なのでしょうか。組織開発の研究と実践を行うDroR(ドロア)が、TOPIX100の有価証券報告書を4つの観点で読んだ調査「DOCI 2026」をもとに読んでいきます。
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DOCIは、人的資本開示を4つの観点で読んでいる
対象は、TOPIX100の有価証券報告書3期分
DOCIが読んだのは、TOPIX100の構成企業が提出した有価証券報告書の3期分(2023年度〜2025年度)です。299書類を特定し、そのうち296テキストを分析しました。2025年度の集計は、報告書を提出した99社が対象です。
DOCI 2026の報告書は2026年7月に公開され、10月8日には、自社の開示を同じ観点で確かめられる「確認シート」も公開されました。
DroRは、DOCIは開示の優劣を判定するものではなく、帯の高さと施策の効果や業績との因果関係を主張するものでもない、と説明しています。あくまで、開示に何が書かれているかを読むための物差しです。
4つの観点は、施策・方針・指標・因果
DOCIは、人的資本についての記述を次の4つの観点で評価しています。
- 施策記述:具体的な打ち手や制度・プログラムが特定されているか
- 方針表明:人材への考え方が、自社固有の言葉で語られているか
- 指標連動:語られた内容が、数値や目標とつながっているか
- 構造・因果記述:施策がいかにして成果を生むのか、その仕組みが語られているか
それぞれを0〜3の4段階(帯)で評価し、帯2以上を「到達」としています。評価は、共通の基準に沿ってAIが一次案を作り、今後、複数の人が独立に評価し直し、評価者どうしの一致度を報告して確定する予定の暫定値です。
では、どの観点で差がついているのでしょうか。
施策は99%が書くが、因果まで書くのは40%
多くの企業が書けていないのは、施策がどのような道筋で成果につながるのか、という因果の説明です。
到達した企業は、施策99%、方針92%、指標85%、因果40%
2025年度の99社で、それぞれの観点に到達した企業の割合は次のとおりでした。施策は99%、方針は92%、指標は85%と、いずれも85%以上に達しています。一方で、因果の記述に到達した企業は40%でした。

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残る約6割(59社)のうち48社は、施策と成果を一段で結ぶ因果には触れています(帯1)。ただ、施策と成果の間で何が起きるのか、という途中の仕組みまでは書かれていませんでした。概念の名前を挙げるだけ(帯0)は11社でした。最上位の帯3に達したのは、99社中1社でした。
指標を施策と結びつけていても、因果の説明は別
指標と施策を結びつけて書いていた企業は84社ありました。そのうち56%にあたる47社は、因果の記述が帯1以下でした。
指標を添えていても、因果の説明が一段どまりの企業が半数を超えています。
たとえば「研修の受講者数」や「1人あたりの研修時間」は、施策を実施したことを示す数字です。ただ、受講した社員の仕事がどう変わり、それが事業のどの成果につながるのかは、数字を並べるだけでは読み手に伝わりません。指標と因果の説明は、別々に意識して書く必要がありそうです。
では、「因果を書く」とは、具体的にどういうことなのでしょうか。
因果の記述とは、施策から成果までの途中を書くこと
DOCIは、途中の仕組みが書かれているかで段階を分ける
DOCIの報告書は、因果の記述の段階を次のように定めています。
- 帯0:概念の名前だけ
- 帯1:単純な一段の因果
- 帯2:途中の仕組み(媒介)を明示した因果
- 帯3:何段もの因果がつながり、互いに強め合う循環や、習慣として定着する仕組みまで書かれている
帯1と帯2を分けるのは、施策と成果の間に、何が起きるのかが書かれているかどうかです。
研修の例で見ると、違いは「途中」にある
営業研修を例に、3つの書き方を並べてみます。いずれも説明のための一般的な例で、効果が確かめられたものではありません。
同じ施策の、3つの書き方
・施策の説明:営業研修を実施した
・一段の因果:営業研修によって、売上の向上を目指す
・途中の仕組みを示した因果:営業研修によって顧客の課題を深く聞き取れるようになり、提案の質を高め、受注率の向上につなげる
1つ目は施策の説明だけ、2つ目は研修と売上を一段で結んだ書き方です。3つ目では、研修と受注率の間に「顧客の課題を聞き取れるようになる」「提案の質が上がる」という、社員の行動や仕事の変化が入っています。読み手は、この会社が何を通じて成果を出そうとしているのかを追えます。
なお、帯は開示の書き方を評価するもので、施策の効果が確かめられたことを意味するものではありません。
途中が書けると、途中を測る指標も選べる
途中の変化が言葉になると、それを測る指標も選びやすくなります。3つ目の例なら、商談で聞き取れた顧客の課題の数や、顧客の課題を反映した提案書の割合などです。
受講者数のような実施の数字と、受注率のような成果の数字の間に、途中の変化を示す数字が入ります。施策が狙いどおりに働いているかを、成果が出る前に確かめられるようになります。
DOCIとは別に、以前の記事(人的資本レポートには何を書けばいいのか ― カルビーの事例を6つの段階で読む)で筆者が使った6つの段階に当てはめると、育成から、実際の配置と活用、組織への波及、経営成果へと進む道筋にあたります。カルビーの開示をDOCIの基準で評価したものではありませんが、見ようとしているところは近いと言えそうです。
では、自社の開示を見直すときは、どこから始められるでしょうか。
筆者の考え:まず「因果」の欄だけ書いてみる
DOCIの確認シートは、無料で公開されている
DroRは、自社の人的資本開示を4つの観点で確かめられる確認シートを公開しています。A4で2ページの記入式で、登録なしで使えます。出典を示せば複製や改変もできるライセンス(CC BY 4.0)です。
自社で確かめるためのシートで、DOCIの公式な判定ではなく、自分で選んだ帯を調査全体の割合と並べて比べることはできない、とされています。
施策ごとに「何を通じて、どの成果へ」を1文で書く
4つの観点を全部埋めるのが大変なら、まず因果の欄だけ書いてみる方法があります。開示している施策ごとに、「この施策は、何を通じて、どの成果につながるのか」を1文で書いてみるのです。
たとえば「1on1の導入」なら、「上司との対話を通じて、社員が自分の課題を早く言葉にできるようになり、離職の減少につなげる」のように書いてみます。「何を通じて」の部分が、先ほどの例でいう途中の変化にあたります。
すらすら書ける施策もあれば、途中が埋まらない施策もあるかもしれません。途中が埋まらないところは、社内でも成果までの道筋が言葉になっていないところかもしれません。そこを人事と事業の担当者で話し合ってみると、開示だけでなく、施策そのものを見直すきっかけにもなりそうです。
自社の開示を見直す場面で、この記事を参考にしてもらえることがあれば幸いです。
【セルフチェック】施策から成果への道筋を確かめる5項目
自社の人的資本開示を、因果の観点で確かめるための項目を並べました。正解を出すためのものではなく、立ち止まって考えるためのものです。気になった項目だけ拾ってもかまいません。各項目に、考えるときの手がかりを一言ずつ添えました。
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開示している施策ごとに、ねらう成果を1文で書けるか施策の一覧の横に、成果を書き足してみます
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施策と成果の間にある、社員の行動の変化を言葉にできるか「何ができるようになるか」を書いてみます
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指標は、施策の実施だけでなく、成果も測っているか受講者数のような数字だけになっていないかを見ます
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人材への考え方が、自社の言葉で書かれているか他社の開示と入れ替えても通じる文になっていないかを見ます
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経営戦略のどの部分と、どの施策がつながっているかを示せるか中期経営計画の重点と施策を並べてみます
用語メモ
本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。
▶ TOPIX100
東京証券取引所の上場銘柄のうち、時価総額と流動性が特に高い100銘柄で構成される株価指数です。
▶ 有価証券報告書
上場企業などが、事業年度ごとに金融庁へ提出する報告書です。2023年3月期から、人材の育成方針や社内環境の整備の方針などの記載が求められています。
▶ CC BY 4.0
出典を表示すれば、複製や改変、再配布を認めるライセンスです。
※本記事は、DroRが公表した「DOCI 2026」と関連資料をもとに、一般的な情報提供を目的として整理したものです。DOCIの定性評価はAI支援による一次コーディングに基づく暫定値で、今後の確定作業で数値が更新される可能性があります。DOCIは開示の優劣を判定するものではなく、帯の高さと施策の効果や業績との因果関係を示すものでもありません。