厚生労働省の調査では、能力開発の計画を全事業所で作っている企業は14.6%でした。法律がすでに用意している「計画」と「推進者」という仕組みを、2026年10月の労働政策審議会・人材開発分科会の論点案とあわせて読んでいきます。
Contents
法律には、能力開発の「計画」と「推進者」の定めがある
リスキリングを処遇までつなぐ取り組みは、国の施策だけでは完結しません。会社の中に、それを受け止める仕組みが要ります。その仕組みは、職業能力開発促進法にすでに用意されています。
計画づくりは、職業能力開発促進法の努力義務になっている
法第11条は、事業主に対して、従業員の能力開発が段階的かつ体系的に行われるよう、計画を作るよう努めることを求めています。この計画を事業内職業能力開発計画と呼びます。
計画に決まった様式はありません。厚生労働省は、経営理念、人材育成の基本方針、雇用管理の方針、各職務に必要な職業能力、教育訓練体系図などを記載するとよいとしています。
推進者は、計画づくりと従業員への相談を担う
法第12条は、事業主に、職業能力開発推進者を選ぶよう努めることを求めています。推進者の業務は、次の3つです。
- 計画を作り、実施する
- 従業員に、能力開発についての相談や指導を行う
- 国や都道府県などから助言や指導を受けるときの窓口になる
推進者には、人事や教育訓練を担当する部署の部課長などを選ぶことが想定されています。また法第11条は、計画を作ったら従業員に周知し、推進者を有効に活用して円滑に実施するよう努めることも定めています。このように法律は、計画を作るだけでなく、推進者を活用して実施していくことも想定しています。
計画と推進者は、助成金の一部のコースで要件になる
計画の作成と推進者の選任は、人材開発支援助成金の一部のコースで支給要件になっています。
では、計画と推進者を整えている会社は、どのくらいあるのでしょうか。
全事業所で整えている企業は、計画14.6%、推進者10.9%
2026年7月31日に公表された「令和7年度能力開発基本調査」によると、全事業所で計画を作成している企業は14.6%、一部の事業所で作成している企業は5.6%でした。推進者を全事業所で選任している企業は10.9%、一部の事業所で選任している企業は6.8%です。
裏を返すと、79.8%の企業は、どの事業所でも計画を作成していません。推進者を選任していない企業は82.2%でした。調査の対象は、常用労働者30人以上を雇用する企業と事業所です。
1,000人以上でも全事業所で計画29.9%、推進者16.5%
企業の規模が大きいほど、割合はおおむね高くなります。ただ、1,000人以上の企業でも、全事業所で計画を作成しているのは29.9%、推進者を選任しているのは16.5%です。30〜299人の企業では、計画が11.4〜19.3%、推進者が9.8〜12.1%でした。

※画像はクリックで拡大できます
全事業所で選ぶ企業では、本社での一括選任が多い
推進者を全事業所で選任している企業のうち64.8%は、本社で1人以上を選任し、すべての事業所を兼任させています。推進者は、事業所ごとに選任する形に限られないことが分かります。
育成に問題がある事業所では、指導人材の不足が最多
能力開発や人材育成に何らかの問題があるとする事業所は、80.1%でした。その内訳(複数回答)で最も多いのは「指導する人材が不足している」の59.5%で、「人材を育成しても辞めてしまう」の51.6%、「人材育成を行う時間がない」の45.5%が続きます。
では、この計画は、いまどんな論点になっているのでしょうか。
論点案は、計画を経営戦略・人材戦略とつなぐことを問う
議論のポイントに、経営戦略との接続が挙がった
2026年10月9日の人材開発分科会で示された論点案は、2つ目の論点で、中小企業をはじめとする各企業で、従業員の能力の獲得と発揮を労働生産性の向上につなげる環境整備を取り上げています。その中に、「企業/事業所内における計画的な能力開発と職業能力開発推進者の活動の促進」という項目があります。
この項目の議論のポイントとして、資料は次の3つを挙げています。
- 企業/事業内計画の役割(企業の経営戦略や人材戦略との接続)
- 従業員の自律的なキャリア形成を支える推進者の活動の促進と、キャリアコンサルタントやジョブ・カードの活用の促進
- 職場における学び・学び直し促進ガイドラインに沿った取り組みの促進
厚労省は、計画づくりの出発点を人材像に置いている
計画と経営戦略・人材戦略との接続は、議論のポイントとして挙げられた段階です。一方で、厚生労働省は今の説明でも、計画づくりの最初の手順に、経営方針や理念にもとづいて求められる人材像と能力要件を明確にすることを置いています。論点案は、この考え方を経営戦略・人材戦略と改めて結びつけようとするものとも読めます。
では、法律にすでにある計画と推進者を使って、キャリアラダーを会社の中で生かすには、どうすればよいでしょうか。
筆者の考え:計画を経営戦略から作り、能力の段階を示す
計画づくりの出発点は、経営戦略です。会社がこれから何をしたいのかを踏まえて、どんな人材と能力が必要かを考え、それを計画に書く。これが一案です。
計画には経営戦略から導いた方針を書き、段階は別紙で示す
厚生労働省は、計画に「各職務に必要な職業能力」を記載するとよいとしています。ただ、必要な能力を文章で並べるだけでは、従業員は自分が今どの段階にいて、次に何を身につければよいのかをつかみにくいかもしれません。
そこで、職種ごとの能力の段階を示す手段として、キャリアラダーを使う方法があります。計画には方針を書き、キャリアラダーは別紙として添える形です。中身を見直すたびに計画全体を書き換えずに済むので、更新もしやすくなりそうです。キャリアラダーの作り方は、以前の記事(リスキリングは「受講」から「処遇」へ ― 2026年10月の労政審・人材開発分科会の論点案を読む)で整理しています。
法律は、計画を従業員に周知することと、推進者を活用して実施することに努めるよう定めています。キャリアラダーを計画の一部にしておけば、説明も運用も見直しも、計画とあわせて進められます。
推進者を中心に、人事と現場が役割を分ける
推進者には、現場の仕事と人事制度の両方が分かる人が向いていそうです。1人で兼ねるのが難しい場合は、推進者を中心に、人事担当者と現場の管理者が役割を分担する方法もあります。
調査で多くの事業所が挙げた「指導する人材の不足」も、この分担の中で、誰が誰を指導するのかを決めておくと、手当てが必要な場所が見えやすくなるかもしれません。
自社の能力開発の進め方を考える場面で、この記事を参考にしてもらえることがあれば幸いです。
【セルフチェック】計画と推進者を見直す5項目
自社の計画と推進者の状況を確かめるための項目を並べました。正解を出すためのものではなく、立ち止まって考えるためのものです。気になった項目だけ拾ってもかまいません。各項目に、考えるときの手がかりを一言ずつ添えました。
-
事業内職業能力開発計画はあるか様式は自由です。人材育成の方針と教育訓練体系図から書き始める方法もあります
-
職業能力開発推進者を選んでいるか本社で選任した推進者が全事業所を兼ねる形もあります
-
計画は、経営戦略や人材戦略と結びついているか経営計画のうち人材に関する部分と並べてみます
-
計画の内容を、従業員に伝えているか法律は、計画を従業員に周知するよう努めることも定めています
-
現場で誰が誰を指導するか、決まっているか推進者、人事担当者、現場の管理者の分担を書き出してみます
用語メモ
本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。
▶ 事業内職業能力開発計画
事業主が、従業員の能力開発を段階的かつ体系的に進めるために作る計画です。職業能力開発促進法第11条で、作成が事業主の努力義務とされています。決まった様式はありません。
▶ 職業能力開発推進者
計画の作成と実施、従業員への相談や指導、国や都道府県などとの連絡を担当する人です。職業能力開発促進法第12条で、選任が事業主の努力義務とされています。
▶ 能力開発基本調査
厚生労働省が毎年行う、企業・事業所・個人の能力開発の実態についての調査です。この記事の数字は、2026年7月31日に公表された令和7年度の調査によるものです。
▶ 人材開発支援助成金
事業主などが、雇用する労働者に職務に関連した専門的な知識や技能を習得させる訓練を計画に沿って実施した場合に、訓練の経費や訓練期間中の賃金の一部などを助成する制度です。
▶ ジョブ・カード
職務経歴、資格、学習・訓練歴、仕事ぶりの評価などをまとめ、キャリアの計画づくりや職業能力の証明に使う書類です。厚生労働大臣が様式を定めています。
※本記事は、2026年10月14日時点で公表されている厚生労働省の資料と調査をもとに、一般的な情報提供を目的として整理したものです。分科会の資料は論点案であり、今後の審議で内容が変わることがあります。助成金の要件などの個別の判断にあたっては、最新の公表資料や労働局の案内をご確認ください。