AIの導入が進むなかで、人事として何から見直せばいいのか。採用か、評価か、育成か、迷うことはないでしょうか。
この記事では、AIで組織の何が変わるのか、組織のどこをそろえればよいのか、そしてその見直しを人事がどの立場で考えるのかを、組織設計の枠組みを使って整理します。
Contents
AIで変わるのは、一人の成果の上限と仕事の単位
大きなチームの仕事を、一人がやり遂げ始めた
Metaのマーク・ザッカーバーグCEOは、2026年1月の決算説明会で、以前は大きなチームが必要だったプロジェクトを、非常に優秀な一人がやり遂げる例が出てきていると話しました。
これまで組織は、「何人いるか」を前提に組み立てられてきました。これからは、人とAIの組み合わせで、どんな成果を出すかが前提になります。
この変化を人材の面から見た考え方は、別の記事(Talent Density(タレントデンシティ)とは? ― Netflixの「能力密度」は、AI時代の日本企業でどう生かせるか)で紹介しています。
今の業務の流れのままでは、成果は変わらない
ただ、今の業務の流れを変えずに、その一部をAIに置き換えるだけでは、出てくるものは変わりません。浮いた時間が、そのまま事業の成果になるわけではないからです。
必要なのは、成果から逆算して、仕事そのものを組み直すことです。浮いた力をどこへ向けるかは、以前の記事(AIで仕事が減ったとき、日本企業は人をどこへ動かすのか)でも考えました。
Microsoftは、組織図を成果を軸に組み替えると見ている
Microsoftは、2025年の働き方に関する報告書で、固定的な組織図から、成果を軸に人とAIエージェントを組み合わせる「Work Chart(ワークチャート)」へ移っていくと見ています。
仕事の単位が「部署」から「成果」に変わる、ということです。
では、人事は、組織のどこから見直せばよいのでしょうか。
人事が見直すのは、5つの要素がそろっているか
人事が最初に見直すのは、個別の制度ではなく、組織の5つの要素がそろっているかどうかです。
AIで一人が出せる成果の上限が上がっても、5つの要素がかみ合っていなければ、その力は成果につながりにくくなります。
組織設計の「スター・モデル」は、組織を5つで捉える
この5つの要素は、組織設計の研究者ジェイ・ガルブレイスが示したスター・モデルの考え方です。組織を、戦略・構造・プロセス・報酬・人材の5つで捉えます。
5つのうち、戦略が、ほかの4つの方向を決める起点になります。
一つだけ変えても、ほかがずれていると機能しない
スター・モデルの要点は、5つが互いに支え合っていることです。組織の構造だけを変えても、プロセスや報酬、人材の仕組みが前のままなら、人の行動は変わりにくくなります。
以前の記事(人事方針を変えるとき、どこまで変えればいいのか)でも触れたように、方針を一つ変えたら、周りの仕組みまで一体で見直す必要があります。AIの導入も、同じ構造です。

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では、AIによって、5つの要素それぞれに何が問われるのでしょうか。
AIで、5つの要素それぞれに新しい問いが生まれる
戦略では、人とAIに資源をどう配分するかが問われる
ShopifyのCEOは、2025年4月に公開した社内メモで、人員や資源を求める前に、AIではなぜできないのかを示すよう各チームに求めました。
Microsoftも、どの仕事にAIエージェントがいくつ要り、それを導く人が何人要るかを示す「人とエージェントの比率」を、新しい指標に挙げています。人員計画は、人数だけでは立てられなくなっています。
構造とプロセスでは、成果を軸にチームを組み直す
Metaは、管理職ではなく専門職として成果を出す人(個人貢献者)を重んじ、チームの階層を減らす方針を示しています。
部署ごとの縦割りのままだと、AIで広がった一人の力が、部署の境目で止まってしまいます。部署をまたいで人が動ける仕組みの例は、以前の記事(スキルを見えるようにしたら、社員は社内を動けるのか ― NTTの社内スカウトに見る「探しにいく」配置)で紹介しています。
どこで、どう集まって働くかも、構造とプロセスの一部です。出社の方針については、別の記事(「原則出社」は増えている。それで成果と人材は守れるのか、AI時代のハードワークとは何か)で整理しました。
報酬と人材では、社外の相場で報いるかが問われる
一人の成果の差が広がると、社内の評価だけで報酬を決める仕組みでは報いきれなくなります。
Netflixは、社員一人ひとりの「個人における最高水準」で払う方針を、今も掲げています(2025年の委任状説明書)。『NO RULES』第4章では、ライバル企業ならいくら払うかを調べ、一番高い額を少し上回る額を払い、市場での価値が上がれば引き上げ続ける、という決め方が紹介されています。
一方、日本企業では、社内の等級と評価で給与を決める仕組みが広く使われています。
中途採用の給与については、厚生労働省の調査があります。前職の賃金を考慮した事業所は27.0%でしたが、最も重視したのは9.2%にとどまります。最も重視されたのは、これまでの経験・能力・知識(38.4%)で、賃金の世間相場(19.1%)が続きます。日本でも、外の相場を見て決める会社が一定数あることが分かります。
アメリカでは、カリフォルニア州(2018年施行)やニューヨーク州(2020年施行)などで、採用の際に前職の給与を聞くことや、それを給与を決める基準にすることが、法律で原則として禁じられています。前職の額を基準にすると、過去の賃金の格差、とくに男女の賃金差が、そのまま次の職場に引き継がれてしまうからです。
なお、Netflixも経営陣の報酬には、市場の最高水準という考え方に加えて、業績との連動を強めています。2023年の株主総会で経営陣の報酬案が株主の投票で否決されたことを受け、2024年からは業績に連動する現金賞与の対象を経営陣全員に広げ、業績に連動する株式報酬も取り入れました。
採用で何を見るかも変わってきています。以前の記事(AIで若手の採用はどう変わるのか ― Anthropicの社内雇用レポートに見る採用基準と社内再配置)も参考にしてください。
では、この5つをそろえて考えるのは、誰の役割なのでしょうか。
5つをそろえるには、人事が戦略をつくる側に入る
人事が戦略を受け取るだけでは、5つはそろわない
人事の仕事は、どうしても「決まった経営戦略に、人事戦略をどう合わせるか」という発想に寄りがちです。「経営戦略が下りてこないと、人事は動きようがない」という声も、よく耳にします。
その感覚は、もっともです。人事の施策は、事業の方向が決まってはじめて形にできるものが多いからです。
だけれども、AIで一人の成果の上限や仕事の単位が変わる今、戦略を待っているあいだに、組織の前提そのものが変わっていきます。人とAIをどう組み合わせれば事業の成果が出るのか。その問いに答えられるのは、人と組織を一番よく知っている人事です。
事業を理解し、人と組織の側から仮説を出す
そのために人事に求められるのは、事業がどう価値を生んでいるかを理解したうえで、「この事業なら、人とAIをこう組み合わせると成果が出る」という仮説を経営に出すことです。
取締役会も、人への投資が戦略とどうつながっているかを問う方向に動いています。その流れは、以前の記事(取締役会は、人への投資をどう問うか ― 戦略とのつながり・途中経過・未達の分析という3つの視点)で整理しました。
では、人事の側は、まず何から始められるでしょうか。
筆者の考え:AIの導入は、組織を設計し直す機会になる
AIの導入は、ツールを入れる話として進むことが多いものです。けれども、一人の成果の上限が変わる以上、戦略・構造・プロセス・報酬・人材の5つも、前のままではいられません。
組織の形が昔のままだと、一人ひとりが成果を出せる力を持っていても、その成果をかえって妨げてしまうからです。
AIの時代の組織づくりは、一人ひとりが出せる成果を、組織が5つの要素でどこまで支えられるか、という問いに変わっていくのではないでしょうか。AIの導入は、そのために組織を設計し直す機会になります。
もし5つのうち、自社で手つかずの要素が見つかったら、そこから経営と話し始めてみてはいかがでしょうか。この記事を参考にしてもらえる場面があれば幸いです。
【セルフチェック】AI時代の組織を考える5項目
この記事の考え方を、自社の組織に当てはめてみるためのチェックリストです。気になった項目だけ拾ってもかまいません。各項目に、考えるときの手がかりを一言ずつ添えました。
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AIの導入の目的を、業務の効率ではなく事業の成果で言える浮いた時間をどこへ向けるか
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人員計画で、人とAIの組み合わせを考えている人を増やす前に置く問い
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部署の境目で、仕事や人の動きが止まっていない部署をまたぐ仕事の流れ
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給与を、社内の評価だけでなく社外の相場とも照らしている中途採用での前職の給与の扱い
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人事が、経営戦略に仮説を出す場がある経営会議での人事の役割
用語メモ
本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。
▶ スター・モデル
組織設計の研究者ジェイ・ガルブレイスが示した枠組みです。組織を戦略・構造・プロセス・報酬・人材の5つの要素で捉え、5つをそろえて設計することで組織が機能すると考えます。
▶ Work Chart(ワークチャート)
Microsoftが2025年の報告書で示した考え方です。部署や役職で固定した組織図ではなく、出したい成果に合わせて、人とAIエージェントを組み合わせて仕事を割り当てます。
▶ 人とエージェントの比率
Microsoftが挙げる新しい指標で、英語では「human-agent ratio」です。どの役割や仕事にAIエージェントがいくつ要り、それを導く人が何人要るかを考えます。
出典
Jay R. Galbraith『Designing Organizations』(Jossey-Bass、1995年)
リード・ヘイスティングス、エリン・メイヤー『NO RULES(ノー・ルールズ) 世界一「自由」な会社、NETFLIX』(土方奈美訳、日本経済新聞出版、2020年)第4章
※本記事は、2026年10月時点の公開情報と書籍の記述をもとにした一般的な情報提供です。海外企業の事例や海外の法制度は公開資料・報道に基づくもので、自社の制度の見直しを検討する際は、専門家にご相談ください。