人的資本・ウェルビーイング経営

AI時代、頑張りは何で測るのか ― ログが人の内側に近づいている

頑張りを、時間ではなく判断と成果で見る。以前の記事(AI時代のハードワークとは何か)で、そう書きました。けれども、判断そのものは目に見えません。では、何を見ればいいのでしょうか。

この記事では、世界で働き方がどんなログで測られてきたのか、そこで何が分かったのかを見たうえで、監視との線引きと、次に何が測られるようになるのかを考えます。

働き方の測り方は、画面から目線へ広がってきた

働き方を測る技術は、画面の中の操作だけでなく、人と人のつながり、体の動き、さらに目線にまで広がっています。目的も測り方も事例ごとに違い、技術が順番に発展してきたわけではありません。何を測っているのかを、4つの事例で見ていきます。

働き方を測る対象の広がり。画面の操作ログ、空間のセンサー、体の動き、一人称の映像・視線という4種類のデータ
働き方を測る対象の広がり。4つの種類を整理したもので、技術の発展の順番を示すものではありません(各社の発表・研究・報道をもとに筆者作成)

※画像はクリックで拡大できます

画面:操作のログで、AIの使い方まで見える

Microsoftの研究者らは、66社・7,137人を対象に、生成AIのCopilotを使える人と使えない人をくじで分ける実験を行い、結果を公表しました(2025年)。メールや会議、文書の操作ログを、本文は見ずに集計したところ、Copilotを実際に使った人では、メールに使う時間が週約2時間減ったと推定されました。一方で、文書の完成や会議の時間には、はっきりした変化は見られませんでした。社員がAIをどこまで使っているかも、こうしたログで見えます。この点は以前の記事(AI利用率が上がらない。社員はどこで止まっているのか)でも扱いました。

空間:センサーで、誰と話したかが見える

名札型のセンサーで、社員が誰と、どこで、どれだけ話したかを記録する取り組みもあります。米国のHumanyzeなどが手がけ、オフィスの中の人のつながりを地図のように描き出します。次の章で紹介するBank of Americaの例も、この仕組みを使ったものです。

体:センサーで、体の動きから職場の状態を推し量る

日立製作所などは、名札型センサーで測った体の動き(加速度)から、集団の「ハピネス度」を推定する技術を発表しました(2015年)。コールセンター2拠点・215人を29日間調べたところ、ハピネス度が平均以上の日は、平均以下の日に比べて受注率が34%高いという相関が見られたとしています。

目線:一人称の映像で、動きそのものが記録され始めた

インドでは、工場の作業員や家庭の人が頭にカメラを付けて自分の作業を撮影し、ロボットの学習データにする仕事が広がっていると報じられました(2026年6月)。Metaも、目線や手の動きまで記録する研究用のメガネを開発しています。記録の対象が、人の目に映るものにまで近づいているのです。

では、こうしたログから、何が分かったのでしょうか。

ログで分かったのは、思い込みとは違う働き方

休憩をそろえたら、成果が上がった

米国の人事メディアHR Diveによると、Bank of Americaのあるコールセンターでは、名札型センサーで社員どうしのやりとりを調べたうえで、ばらばらだった休憩をやめ、チーム全員で15分同じ時間に休む形に変えました。社員どうしで仕事のこつや悩みを話しやすくするためです。その結果、通話が短くなり、ストレスが下がり、生産性が少なくとも10%上がったといいます。休憩は仕事を中断する時間だから、ばらばらに取るほうがよい。そんな発想を見直すきっかけになった例です。

熟練者のやり方が、AIを通じて新人に広がった

顧客対応の担当者5,172人を調べた研究(2025年、経済学の学術誌に掲載)では、生成AIの支援で1時間あたりの解決件数が平均15%、経験の浅い人やスキルの低い人では約30%増えました。研究者は、熟練者の応対のしかたがAIを通じて新人に広がった可能性を指摘しています。ログは、誰のやり方が成果につながっているのかも映し出します。

では、ログを使えば、それで頑張りを正しく見られるのでしょうか。

同じログが、監視にも振り返りにもなる

AI時代の頑張りは、時間ではなく、どんな判断をし、何を生み出したかで測るものです。ログは、判断そのものを映すわけではありません。それでも、行動や結果の記録は、なぜその判断をしたのかを振り返る手がかりになります。ただ、同じログでも、本人に知らされず一方的に評価に使われれば監視のように働き、本人にも共有されて判断の振り返りに使われれば学びの材料になります。何を測るかより先に、そのログを誰が、何のために見るのかを決めることが要ります。

作業の速さをノルマにすると、休めなくなる

米カリフォルニア州は2021年、一定規模以上の倉庫を対象に、作業ノルマを規制する法律(AB 701)をつくりました。ノルマの内容を書面で示すこと、休憩やトイレを妨げるノルマを禁じることを定め、ノルマのせいで休憩が取れなかったと考える人は、自分の作業速度のデータ(直近90日分)を求められます。測った数字を追い求めすぎると、休むことさえ難しくなる場合があります。以前の記事(AI利用率をKPIにすると何が壊れるか)で書いた、測るものが目的にすり替わる構造と同じです。

EUは、職場での感情認識AIに線を引いた

EUのAI法は、職場や教育機関で、表情や声などの生体データから人の感情を推定するAIの使用を、医療や安全上の理由を除いて禁じています(2025年2月から適用)。生体データから個人の感情を推し量って職場で使うことには、明確な制限が設けられました。

日本でも、モニタリングの目的とルールを明確にする

日本の個人情報保護委員会は、個人データの安全管理などのために従業者をモニタリングするときの留意点として、目的を特定して社内規程に定め従業者に示すこと、実施責任者と権限を決めること、ルールどおりに行われているかを確かめることを挙げています。個人情報の取り扱いに関する重要な事項を決めるときは、労働組合などに事前に知らせ、必要に応じて話し合うことが望ましいともしています。

では、これから先、ログで何が見えるようになるのでしょうか。

次に近づいてくるのは「どう判断したか」

熟練者の目線と手の動きが、学習データになる

一人称の映像や目線の記録は、「何をしたか」だけでなく、「何を見て、どう判断したか」の手がかりになります。熟練者が言葉にできなかった判断のこつが、データとして形になり始めているのではないでしょうか。

そのとき、新しい問いも生まれます。熟練者の動きから学んだAIやロボットが、その人がいなくても同じ仕事をこなせるようになったとき、その技能の価値は誰のものなのか。会社と本人のあいだで、これから問われていくことになりそうです。

経営・人事・管理職が、先に決めておくこと

  • 経営:何のためにログを取るのかを言葉にする(評価か、業務の改善か、学習か)
  • 人事:誰がどのログを見られるかを決める。評価に使う範囲と使わない範囲を分け、ログだけで評価を決めない
  • 管理職:ログを、部下を問い詰める材料にしない。本人と一緒に見て、次の判断を良くする材料にする

では、ログは、働く一人ひとりにとって何になるのでしょうか。

筆者の考え:ログでまず覆るのは、評価する側の思い込み

休憩をそろえた例が示すように、ログが最初に覆すのは、働く人の怠けではなく、仕組みをつくる側の思い込みなのかもしれません。「みんなで話している時間はむだ」「長くいる人ほど頑張っている」。そうした前提が、データで静かに崩れていきます。

ただ、ログが記録するのは行動の一部です。AIをあまり使っていない人がいても、学ぶ機会がなかったのか、その仕事には要らなかったのか、使わないほうがよいと判断したのかは、ログだけでは分かりません。ログだけで人を分かったつもりにならないこと。その意味を知るには、本人との対話が欠かせません。

ログは、働く人が自分の判断を振り返る鏡にもなります。自分では正しいと思っていた判断が、データで覆る。悔しい経験ですが、そこから次の判断が良くなります。頑張りを判断で見るなら、その判断を本人が見直せる材料を渡すことが、組織の役割ではないでしょうか。

測る技術は、これからも人の内側へ近づいていきます。だからこそ、何を測るかより、誰のために測るかを先に決めたいと考えています。働き方の測り方を考えるとき、参考にしてもらえる場面があれば幸いです。

【セルフチェック】ログで働き方を測る前に決める5項目

働き方のログを取る前に、決めておきたいことを並べました。まだ決まっていない項目があれば、そこが話し合いの入口になります。

  • ログを取る目的を、評価・改善・学習のどれかで言葉にしている「何のために測るのか」
  • 誰がどのログを見られるかが、決まっている本人・上司・人事の範囲
  • ログだけで、評価や処遇を決めない仕組みがある人が判断を加える場面
  • 社員が、自分のログを見て振り返れるデータを本人に返しているか
  • ログを取ることを、目的とあわせて事前に知らせている社内規程と、社員・労働組合への周知

 

用語メモ

本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。

▶ ログ

システムや機器が自動で残す記録のことです。パソコンの操作、メールの送受信、センサーが測った位置や動きなどが含まれます。

▶ ピープルアナリティクス

人事や働き方に関するデータを分析し、配置・育成・組織づくりなどの判断に生かす取り組みのことです。

▶ 一人称視点データ

作業する本人の目線の位置に付けたカメラで撮った映像などのデータです。英語ではエゴセントリックデータと呼ばれ、ロボットやAIに人の動きを学ばせるために使われ始めています。

▶ 感情認識AI

表情・声・体の動きなどに関する生体データを分析し、人の感情や意図を推定するAIのことです。EUのAI法は、職場と教育機関での使用を、医療・安全上の理由を除いて禁じています。

 

出典









 

※本記事は、2026年11月時点の公開されている研究・報道・法令をもとにした一般的な情報提供であり、個別の法的助言ではありません。従業員のモニタリングやデータの取り扱いを検討する際は、専門家にご相談ください。

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