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質問がうまい人は、聞く前に何をしているのか ― 判断を引き受けるための、質問の組み立て方

忙しい上司や先輩に「ちょっといいですか」と声をかける前、何を準備しているでしょうか。

近くにいると、問いを整理しなくても聞けてしまいます。けれども、在宅で働く日が増え、AIに仕事を頼む場面も増えた今、聞く前に何を整理するかで、返ってくる答えの質が大きく変わります。この記事では、仕事を任され始めた若手の方に向けて、判断を自分で引き受けるための質問の組み立て方を、研究とAIの使い方のガイドを手がかりに整理します。

聞くことは、相手の時間を使うが、弱さではない

聞かれる側は、自分の仕事の時間を差し出している

カリフォルニア大学アーバイン校などの研究者が48人を対象に行ったメール返信の実験(2008年)では、中断された条件で、中断への対応時間を除いた作業時間が短くなった一方、ストレスやいら立ちが高まっていました。以前の記事(AI時代のハードワークとは何か)でも、同僚の近くで働くと、経験のあるエンジニアが書くコードの量が減っていた研究を紹介しました。すぐに聞けるのは便利ですが、その便利さは、聞かれる側の作業時間に支えられていることもあります。

それでも、助言を求める人は有能に見られることがある

一方で、ハーバード・ビジネス・スクールなどの研究者は、人に助言を求めることが、相手からの有能さの評価を高める場合があることを、複数の実験で示しました(2015年)。難しい課題では、助言を求めた人の評価が高まりました。また、別の実験では、第三者ではなく、評価する相手本人に助言を求めたときに、その効果が見られました。「こんなことを聞いたら、できないと思われる」という心配は、必ずしも当たっているわけではありません。

問題は、聞くことそのものではなく、どう聞くかです。相手の時間を大事にしながら聞くために、聞く前に何を考えればいいのでしょうか。

質問には、事実・やり方・判断の3種類がある

聞く前に、まずその質問の種類を見分けてみます。この記事では、質問を大きく3つに分けて考えます。

  • 事実を聞く:「去年の資料はどこにありますか」
  • やり方を教わる:「この申請はどう進めればいいですか」
  • 判断を相談する:「未確定の項目を残して、今日お客さまに出してよいですか」

どの種類の質問でも、添えたいことが2つあります。何のために知りたいのか(目的)と、自分がどこまで分かっているかです。

たとえば、事実を聞くときも、「来週の提案で去年の数字と比べたいので、去年の資料を探しています。共有フォルダの2025年度は見ました」と添えると、相手は「それなら資料より、こちらの集計表のほうが早い」と、目的に合った答えを返せます。やり方を教わるときも、どこまで理解しているかが分かれば、相手は分からないところから説明を始められます。

そのうえで、判断を相談するときは、もう一歩、整理が要ります。仕事を始めたばかりのころは、事実ややり方の質問が多くて当然です。けれども、仕事を任されるほど、判断を相談する質問が増えていきます。

では、判断を相談するときは、何を整理すればいいのでしょうか。

判断を相談するときは、4つを整理してから聞く

判断を相談するときは、目的と分かっていることに、「分からないこと」と「自分の案と期限」を加えた、「何を決めたいのか」「分かっていること」「分からないこと」「自分の案と期限」の4つを整理します。この4つがそろうと、質問は「どうしたらいいですか」から、「私の判断を一緒に確かめてください」に変わります。

医療の現場には、判断を仰ぐ型がある

この型は、新しいものではありません。医療の現場では、看護師が医師に判断を仰ぐとき、SBAR(エスバー)という型が使われています。状況・背景・自分の評価・自分の提案の英語の頭文字で、米海軍のやり方をもとに医療向けに作り直されたものです。

米国の医療の質改善研究所(IHI)の手引きには、看護師が医師に電話で伝える例が載っています。患者の状態(状況)と、入院の理由や最近の検査値(背景)を伝えたうえで、「出血が続いていると思います。心筋梗塞も否定できませんが、その判断に必要な検査結果はまだありません」と自分の評価を述べ、「心電図と採血をしたいです。すぐに診ていただけますか」と提案します。「どうしたらいいですか」とは聞いていません。

判断を相談するときに整理する4つのこと。何を決めたいのか、分かっていること、分からないこと、自分の案と期限。報告書の例で、整理する前と後の質問を比べている
判断を相談するときに整理する4つのこと(SBARの考え方も参考に、筆者が独自に整理。例も筆者作成)

※画像はクリックで拡大できます

オフィスの仕事に当てはめると

オフィスの仕事に当てはめてみます。お客さまに出す報告書の数字が、1項目だけ明日にならないとそろわないとします。

まず、何を決めたいのかを一文にします。「元データの担当者に急いでもらう方法を教えてください」と聞くのは、手段についての質問です。本当の目的が「明日のお客さまの会議に間に合わせること」なら、それを伝えます。そのとき決めたいのは、「未確定の項目を注記して今日出すか、数字がそろう明日まで待つか」です。目的が分かれば、相手は「確定している分で先に出して、残りは注記すればいい」といった、別のもっと良い道を示せます。本当の目的を伝えず、自分が思いついた手段だけを聞いてしまうことを、プログラマーのあいだでは「XY問題」と呼びます。

次に、分かっていることと、分からないことを分けます。「9割の数字は確定している。1項目だけ明日にならないとそろわない」。そのうえで、分からないことを「未確定の項目を残して出してよいか」という1つの問いに絞ります。

最後に、自分の案と期限を添えます。「確定分で今日出し、残りは注記して明日差し替える案を考えています。17時までにご判断いただけますか」。案があれば、相手は「それでいい」「その項目は大事だから、先に電話で一言伝えて」と、自分の立場や経験を踏まえた判断だけを返せます。

この整理は、人に聞くときだけのものなのでしょうか。

問いを整理する力は、AIに指示を出す力と重なる

Claudeを開発するAnthropicは、AIへの指示の書き方のガイドで、Claudeを「優秀だが、あなたの仕事のやり方や文脈を知らない新しい社員」にたとえています。指示の理由や背景を伝えると、より的確な答えが返ってくるとし、「文脈をほとんど知らない同僚にその指示を見せて、迷うようなら、Claudeも迷う」という確かめ方を勧めています。

ガイドには、こんな例があります。「省略記号(…)は絶対に使わないで」と指示するより、「あなたの回答は音声読み上げソフトで読まれます。読み上げソフトは省略記号の読み方が分からないので、使わないでください」と理由を添えるほうが、効果が高いというのです。理由が分かれば、AIはそこから考えを広げられます。

人に判断を相談するときに整理する4つは、そのままAIへの良い指示にもなります。目的、分かっていること、分からないこと、欲しい答えの形。AIに仕事を任せる時代には、問いを整理する力が、仕事の質を左右する力になっていきます。

整理しているうちに、答えが自分で見つかることもあります。ゴムのアヒルにプログラムを1行ずつ説明して誤りに気づく「ラバーダック・デバッグ」(1999年刊行の『達人プログラマー』にも登場する方法)のように、言葉にすることは、それだけで考えを進めます。

では、質問を受ける側は、何ができるでしょうか。

教える側は、足りない整理を問いで補う

質問を受ける上司や先輩にも、できることがあります。それは、質問に足りないところだけを、問いで補うことです。

  • 目的がないとき:「それは何のため?」と聞く
  • どこまで分かっているかが見えないとき:「どこまで調べた?」と聞く
  • 判断の相談なのに、自分の案がないとき:「あなたはどうしたい?」と聞く

反対に、4つがそろった質問には、そのまま判断を返します。目的も、分かっていることも、自分の案も伝えたのに、さらに「あなたはどう考える?」と聞き返されたら、聞いた側は困ってしまいます。問い返すのは、整理が足りないところだけで十分です。

あわせて、4つの整理をチャットで質問するときのひな形としてチームで共有したり、どこまでは自分で決めてよいかを伝えたりしておくと、聞く回数そのものが減っていきます。部下が自分で「良い行動か」を判断できるようにする育成については、以前の記事(承認は何のためにするのか)でも扱いました。質問の受け方は、その入り口になります。

筆者の考え:問いを整理することは、判断を引き受けること

ここに書いたことは、初歩の初歩です。それでも、言葉にしておきたいと思いました。教える側になったとき、「もっと考えてから聞いて」と伝えるだけでは、何をどう考えればいいのかが相手に届かないからです。型があれば、教える側と教わる側が、同じ言葉で話せます。

問いを整理するとは、「何を決めたいのか」を自分で持つことです。答えを人にもらうのではなく、判断を自分のものとして引き受ける。その第一歩が、聞く前の数分の整理なのだと思います。上司に聞くときも、AIに頼むときも、参考にしてもらえる場面があれば幸いです。

【セルフチェック】聞く前に確かめる5項目

誰かに質問する前、AIに頼む前に、確かめてみてください。

  • その質問が、事実・やり方・判断のどれかを見分けている判断の相談なら、4つを整理する
  • 何のために知りたいのか(目的)を、一文で言える事実を聞くときも、目的を添える
  • 自分がどこまで分かっていて、どこから分からないかを伝えられる調べたこと、理解しているところ
  • 判断の相談なら、自分の案を1つ持っている「私はこうしたい」から始める
  • いつまでに答えが必要かを伝えられる今すぐか、あとでよいか

 

用語メモ

本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。

▶ SBAR(エスバー)

Situation(状況)、Background(背景)、Assessment(評価)、Recommendation(提案)の順に伝える、医療現場のコミュニケーションの型です。米海軍のやり方をもとに、米国のカイザー・パーマネンテの医師らが医療向けに作り直しました。

▶ XY問題

本当に解決したい問題(Y)ではなく、自分が思いついた解決の手段(X)についてだけ質問してしまうことです。相手は手段の質問には答えられても、目的に合ったもっと良い方法を示せなくなります。

▶ ラバーダック・デバッグ

ゴム製のアヒルなど、話を聞いてくれる相手に見立てた物に、自分のプログラムや考えを1つずつ声に出して説明し、その過程で誤りや抜けに気づく方法です。

▶ プロンプト

生成AIに入力する指示や質問の文章のことです。目的や背景、欲しい答えの形を伝えるほど、意図に合った答えが返りやすくなります。

 

出典









 

※本記事は、公開されている研究やガイドをもとにした一般的な情報提供です。職場の状況に合わせて、取り入れやすいところから試してみてください。

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