社長や役員は、生成AIを何に使えばいいのでしょうか。この記事では、経営層が生成AIを「自分には必要ない」と感じる理由を調査データから確かめ、その中身を分けて考えたうえで、経営層に向く使い方を整理します。
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経営層の利用は伸びているが、管理職との差は残っている
生成AIの業務利用は、この1年で大きく広がりました。パーソル総合研究所の追跡調査によると、正規雇用者の業務利用率は、2025年10月の41.9%から、2026年5月には54.3%へ上がっています。では、経営層自身はどうなのでしょうか。
社長・役員の利用率は、この半年で他の職位より大きく伸びた
同じ調査を職位別に見ると、代表取締役・社長相当の利用率は40.2%から57.5%へ17.3pt、役員相当は43.6%から60.4%へ16.8pt上がりました。伸び幅は社長が最も大きく、役員がそれに続きます。

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課長・部長との差は15〜20ptあり、使わない理由の傾向も違う
伸びたとはいえ、2026年の時点でも、課長相当は73.3%、部長相当は77.2%です。社長・役員は、まだ15〜20pt低い位置にいます。
使っていない人に理由を聞いた2025年の調査では、どちらの層でも最も多いのは「自分の業務には必要性を感じない」でした。そのうえで、経営層はこの項目(27.6%)と「どのような業務で使えるのかイメージできない」(17.2%)が一般職層(20.6%、10.8%)より高く、一般職層は「使い方がわからない」(13.2%)が経営層(8.6%)より高い、という違いがありました。

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この図は、差の大きい項目を抜き出したもので、一般職層と経営層それぞれの人数は示されていません。そのため、数字の大小は傾向として読むのが安全です。それでも、報告書自身が「役員・経営者の利用が少ない。経営層こそもっと個人で利活用を」と書いていることからも、経営層の利用が課題として見えていることが分かります。
以前の記事(AI利用率が上がらない。社員はどこで止まっているのか)で整理した段階に当てはめると、経営層は、使い方を覚えるより手前の「分かる」「仕事と結びつける」段階で止まりやすい、と読むことができます。
中小企業では、経営層が使わないと方針も推進体制も生まれにくい
企業の規模によっても、利用には大きな差があります。パーソル総合研究所の2025年の調査では、全国の就業者の業務利用率は、従業員1,000人以上の企業で49.9%、100人以上1,000人未満で41.2%、100人未満では23.5%でした。

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中小企業では、経営層の使い方が会社全体を左右しやすくなります。ラクスルが従業員2〜100名の中小企業の経営者・従業員300人に聞いた調査(2026年7月)では、「積極的にAIを活用している」割合が、代表・役員は27.2%で、役職の中で最も低い結果でした。さらに、代表・役員が全く使っていない企業では、85.7%で「AI活用の方針も推進体制もない」と答えています。
回答者300人の調査なので、数字は目安として見る必要があります。ただ、経営層が自分で使っていなければ、方針を出す人も、推進を引っ張る人もいないままになりやすい、ということは想像しやすいはずです。
では、経営層が感じている「必要ない」の中身は、何なのでしょうか。
経営層の「必要ない」には、3つの中身が考えられる
調査で分かるのは、「必要性を感じない」という回答までです。なぜ必要ないと感じるのか、その中身までは示されていません。ここからは、筆者の仮説として、3つに分けて考えてみます。
経営層には、「答えを返してくれる人」がすでにいる
経営層は、調べもの、資料づくり、論点の整理を、部下や経営企画、秘書に頼むことができます。表面的に見れば、「指示を出し、整理された答えを受け取る」という点は、多くの人がAIに期待している使い方と似ています。
自分でAIに打ち込むより、慣れた人に頼む方が早く、確実です。そう感じるのは、ごく自然なことです。
判断は自分の仕事なので、AIには任せられないと考えている
経営層の仕事の中心は、判断と、その結果への責任です。AIが出した答えで会社の方向を決めるわけにはいかない、という感覚があっても不思議ではありません。
この感覚自体は、正しいものです。判断と責任は、AIに置き換えられるものではありません。
経営の仕事は定型ではないので、AIを使う場面に切り出しにくい
一般職の仕事は、「議事録をまとめる」「資料の下書きを作る」のように、作業の単位に分けやすいものが多くあります。一方、経営の仕事は、会議、対話、判断が切れ目なくつながっていて、「この作業にAIを使う」と切り出しにくい性質があります。
経営層に「どのような業務で使えるのかイメージできない」が多かったのは、この性質とも重なります。
この3つの仮説には、実は共通する前提があります。
AIを「答えを出す道具」と見ると、経営層には必要なくなる
答えを出させるだけなら、部下に頼めば足りる
3つの仮説はどれも、AIを「頼めば答えを出してくれる道具」と見ています。この前提に立つと、経営層にとってのAIは、部下の仕事の一部を置き換えるものでしかありません。
信頼できる部下がいて、判断は自分でするのなら、AIが「必要ない」と感じるのはむしろ合理的です。問題は、経営層の感じ方ではなく、前提の置き方にあるのかもしれません。
判断をAIに任せなくても、判断の準備にはAIを使える
2つ目の仮説は、正しい感覚から出発しています。ただ、判断をAIに任せないことと、判断の準備にAIを使わないことは、別の話です。
判断の前には、前提を疑う、見落としを探す、まだ言葉になっていない自分の考えを整理する、という準備があります。そして、ここは部下に頼みにくい部分でもあります。部下は、上司の考えの穴を指摘しにくい立場にいるからです。
では、判断をAIに任せずに、判断の準備にAIをどう使えばよいのでしょうか。
AIを「思考の相手」にする考え方は、すでに示されている
この問いには、すでにいくつかの答えが出されています。AIを「答えを出す道具」ではなく、「一緒に考える相手」として使う、という考え方です。
Capgeminiの経営層調査では、AIに考えを問い直させる使い方が広がる
コンサルティング会社Capgeminiの研究所は、年間売上100億ドルを超える企業の経営幹部500人(うちCEO100人)に、16か国で調査を行いました(2025年8〜9月)。現在、経営幹部のAIの主な使い方は、調べものや要約などの作業の支援です。一方で、3年以内には、自分の戦略的な考えを広げたり、問い直したりする使い方が中心になると見込まれています。
効果の実感にも差が出ています。主に、提案された判断をAIに批判させたり、シナリオを試させたりしている経営幹部は、主にメールや議事録、文書づくりの支援に使っている経営幹部に比べて、判断の質や先を見通す力などで「目に見える効果があった」と答えた割合が1.4〜1.7倍高くなっていました。Capgemini Inventの経営研究部門の責任者らは、AIに答えを求める使い方から、「スパーリング相手(練習相手)」として関わる使い方への転換を指摘しています。
最終的な判断と責任は人が持ち、AIには前提を問い、見落としを浮かび上がらせる役割を持たせる。レポートでは、ハーバード・ビジネス・レビューの記事から、取締役会の場でChatGPTを使って経営陣の提案の前提を確かめ、別の案を出させた取締役会議長の例も紹介されています。
Microsoft Researchは、AIを「思考の相手」にすることを提案している
Microsoft Researchは、知識労働者319人による936件のAI利用の事例を調べた研究で、AIへの信頼が高い人ほど、自分で批判的に考えることが少なくなる傾向を示しました。反対に、自分の能力に自信がある人ほど、批判的に考えることが多くなっていました。
そのうえで研究チームは、AIを答えを渡す道具としてではなく、考えを深めるための相手として扱うことを提案しています。答えの道具として信頼しすぎると、人は考えなくなる。その裏返しとしての提案です。
パーソル調査でも、「問いを楽しむ」人ほどAIを使いこなしている
日本の調査にも、同じ方向を示す結果があります。パーソル総合研究所の2025年の調査では、生成AIを使いこなしている度合い(成熟度)との関連を調べた2つの個人の特性のうち、より強く関連していたのが「問いを楽しむ志向性」でした(もう1つは「他者に共有する志向性」)。
この特性を測る項目には、「一度得た答えでも、別の可能性を考えてみる」「答えを探すより、問いをつくる方が面白いと思う」といったものが含まれています。

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これは関連を示す分析で、問いを楽しむから成熟度が上がる、という因果までは示していません。それでも、2026年の追跡調査でも、物事を二分法で考えず、複数の視点と長い時間軸で考える力(立体思考)が高い人は、自分の考えを深めるきっかけとしてAIを使っている様子が報告されています。
3つの調査・研究に共通しているのは、AIの答えをそのまま受け取るのではなく、自分の考えを動かすために使う、という姿勢です。では、経営層は具体的にどう使えばよいのでしょうか。
経営層に向くのは、違和感を示してAIに構造化させる使い方
AIに答えを出させるだけなら、部下がいる経営層には、AIの必要性が見えにくくなります。経営層に向いているのは、AIの案に感じた違和感を手がかりに、自分の経験を引き出し、AIに構造化させる使い方です。AIが考えるのではなく、AIによって自分の思考が起動する。これなら、判断をAIに任せないまま、判断の質を上げることができます。
筆者の使い方は、AIの案への違和感から自分の考えを引き出すこと
筆者自身、AIに「正解を出してもらう」使い方はあまりしていません。多いのは、次のような使い方です。
- AIに、最初の案や構造を出してもらう
- それを見て、「何か違う」「この言葉はしっくりこない」と反応する
- その違和感の理由や背景を、AIに構造化してもらう
- 自分の過去の経験や、別の知識と結びつける
- 必要に応じて、別のAIにも同じ問いを投げて比べる
- 一次情報や原典にあたり、事実を確かめる
- 何を採用するかは、最後に自分で決める
筆者は、何もないところから考えるより、何かを見て連想し、別の経験とつなげることで考えが深まるタイプです。そのため、AIが出した案そのものより、それを見たときに自分の中で起きる「そこではない」「それなら、あの経験とつながる」という反応の方が大事になります。AIは考えることの代わりではなく、自分の中にある情報を引き出すための呼び水に近い存在です。
実際、記事を作るときにも、違和感から方向が変わった場面がありました。AIに、既存の理論や研究との似ている点・違う点を整理させたところ、AIは「違う点を突き詰めれば、新しい理論として打ち出せる」という方向を示してきました。
けれども筆者は、そこに違和感を持ちました。読者が求めているのは新しい理論ではなく、現場で使える考え方のはずだ、と感じたからです。その違和感をAIと一緒に言葉にしていくと、「理論やモデルは脇役で、主役はそれを現場でどう使うか」という記事の軸が見えてきました。そこから、記事全体の組み立てが変わりました。
もっと小さな違和感もあります。AIが使う言葉が、ぱっと見て何を指すのか分からないとき、言い回しそのものを見直すことは何度もあります。
経営層の経験は、違和感という形で表に出やすい
経営層は、長い年月をかけて多くの経験を積んでいます。ただ、その経験がいつも言葉になっているとは限りません。むしろ、「何かおかしい」という感覚として先に現れることの方が多いのではないでしょうか。
AIが案や問いを返すと、それに対して「そこではない」「それならこちらだ」という反応が起きます。その反応をきっかけに、言葉になっていなかった経験が表に出てきます。長年の経験を積んできた経営層にとって、こうした違和感は、言葉になっていない経験知にアクセスする一つの入口になり得ます。
実際に、自分のAIの使い方を公表している経営者もいます。ソフトバンクグループの孫正義氏は、「ソフトバンクグループレポート2026」のトップメッセージで、毎日ChatGPTに何度も問いかけ、アイデアの壁打ちに使い、社員との議論を深めるためにも活用していると書いています。
違和感も正しいとは限らず、AIの忖度にも注意がいる
ただし、違和感はいつも正しいわけではありません。経験から生まれる大事なサインである一方で、思い込みや偏りである可能性もあります。
さらにやっかいなのは、AIが、その思い込みに合わせた答えを返しやすいことです。まるで忖度しているように見えるこの振る舞いを、研究では「迎合性」と呼んでいます。Anthropicの研究チームは、当時の主要なAIアシスタント5つが、4種類の課題で一貫して迎合的に振る舞うことを示しました。その背景として、ユーザーの見解と一致する回答ほど、人の評価で好まれやすいことも分かっています。
実際に、OpenAIは2025年4月、ChatGPTのGPT-4oの更新が「過度にお世辞的で同調的」だったとして、その更新を取り消しています。
経営層は、部下の忖度には警戒をしているかもしれません。けれども、AIも忖度するように振る舞います。違和感をAIに構造化させると、その違和感にもっともらしい理由が付いて、思い込みがかえって強まってしまうことがありえるため、一定の注意が必要です。
反証させ、複数のAIと一次情報で確かめてから、自分で判断する
そこで、違和感を構造化させたあとに、もう一段の確認を入れます。反対の立場から考えさせる、別の説明がないかを出させる、根拠を確かめる、そして複数のAIに同じ問いを投げる、といった確認です。
筆者は、記事のファクトチェックでも、3つのAIに同じ依頼をしています。この記事を作る過程でも、3つのうち1つだけが、企業の発表資料と異なる対象人数を挙げてきたことがありました。発表資料に戻って確かめ、記事では発表どおりに書いています。AI同士で答えが割れたところは、「どちらが正しいか」を確かめるだけでなく、「どこに解釈の余地があるのか」を考えるきっかけにもなります。

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経営層が自分でAIを使うことは、現場のAI活用を見る目にもなる
経営層がAIを使う意味は、自分の判断を磨くことだけではありません。自分で使っていると、現場のAI活用を、数字以外で見ることができるようになります。
パーソル総合研究所は、利用率だけを追うと、経営層に「活用が進んでいる」という思い込みを与えかねない、と指摘しています。自分で使った経験がなければ、利用率などの数字に頼って、現場の活用状況を判断しやすくなります。一方、自分で使っていれば、現場から新しい使い方が報告されたときに、それがどれくらい価値のあるものかを、自分の感覚で判断できます。
違和感を手がかりにAIを使うことは、自分の経験を言葉にする練習でもあります。まずは一つの判断の前に、AIに案を出させて、「何か違う」と感じたところを言葉にしてみる。そこから、経営層ならではのAIの使い方が見えてくるのではないでしょうか。
【セルフチェック】経営層としてのAIの使い方を確かめる6項目
この記事の考え方を、ご自身のAIの使い方に当てはめてみるためのチェックリストです。正解を出すためのものではなく、立ち止まって考えるためのもの。気になった項目だけ拾ってもかまいません。各項目に、考えるときの手がかりを一言ずつ添えました。
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この1か月で、自分でAIを使ったことがあるか部下に使わせるだけになっていないか
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AIを「答えを出す道具」としてだけ見ていないか判断の準備に使える場面はないか
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AIの案に「何か違う」と感じたとき、その理由を言葉にしているか違和感をそのまま流していないか
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AIが自分の考えに賛成しすぎていないか、疑っているか反対の立場から考えさせたことがあるか
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大事な事実は、AIの答えだけで判断していないか別のAIや一次情報で確かめているか
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現場のAI活用を、利用率の数字だけで見ていないか自分の感覚で価値を判断できる使い方を知っているか
用語メモ
本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。
▶ 迎合性(sycophancy)
AIが、事実としての正しさより、ユーザーの考えや好みに合わせた答えを返しやすい傾向のことです。人の評価をもとに学習する過程で、ユーザーの見解に合う回答が好まれやすいことが一因とされています。
▶ スパーリング相手
もとはボクシングなどの練習相手のことです。この記事では、答えを出してもらう相手ではなく、前提を問い、見落としを指摘してもらうことで、自分の考えを鍛える相手という意味で使っています。
▶ 問いを楽しむ志向性
パーソル総合研究所の調査で使われている、個人の特性の一つです。「一度得た答えでも、別の可能性を考えてみる」「答えを探すより、問いをつくる方が面白いと思う」などの項目で測られています。
▶ 他者に共有する志向性
パーソル総合研究所の調査で、「問いを楽しむ志向性」と並んで生成AIの成熟度との関連が調べられた個人の特性です。自分の発見や考えを人に話し、人との対話から考えを整理しようとする傾向を指し、「他の人と話すことで自分の考えが整理される」などの項目で測られています。
▶ 一次情報
発表した本人や組織が出している、元の情報のことです。企業の発表資料、調査の報告書、法令の原文などを指します。これをもとに書かれた解説記事などは、二次情報と呼ばれます。
出典・参考情報
※本記事は2026年9月時点で公開されている調査・資料をもとに、経営層の生成AIの使い方を一般的に整理したものです。調査の数値は各出典の定義と対象によるもので、個別の企業にそのまま当てはまるとは限りません。