人的資本・ウェルビーイング経営

エンゲージメント調査のあと、管理職をひとりにしていないか ― レゾナックが生成AIで支える職場改善

エンゲージメント調査の結果が届いたあと、その数字をどう読み、職場で何を話すかは、管理職ひとりに任されていないでしょうか。AIで管理職の仕事が「管理」から「判断と育成」へ移ると言われるいま、レゾナックが自社で開発した生成AIのアプリから、調査結果を職場の改善につなげる支え方を考えます。

AIで、管理職の仕事は人と方針の側へ移り始めた

AIで減ったのは、資料作成と情報収集だった

アクシスコンサルティングが2026年10月22日に公表した調査は、課長級以上で部下を持つ639名に、AIで管理職の仕事がどう変わったかを聞いています。以前の記事(AI時代、企業は「AIを使える人」の先に何を求めているのか)で取り上げた、採用に関わる管理職・人事648人への同社の調査とは別のものです。

このうち、チームでAIを活用している、または活用を検討・試行している437名に、AIで負担が減った管理業務を聞くと、会議資料・報告資料の作成が43.5%、情報収集・要約が41.2%、議事録作成が36.8%でした。情報を集めてまとめる仕事を中心に、AIによる負担の軽減が進んでいることがうかがえます。

AIで負担が減った管理業務と、以前より重要性が高まった仕事の上位3つ
図1 AIで減った管理業務と、重要性が高まった仕事(アクシスコンサルティング株式会社調べをもとに筆者作成。n=437、複数回答)

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重みが増したのは、方針を示すことと部下との対話

同じ437名に、AIの活用で以前より重要性が高まった仕事を聞くと、方針・ビジョンの提示が34.8%、部下との対話・1on1が29.5%、意思決定・優先順位づけが25.6%で上位に並びました。

回答者639名全体では、61.6%が、管理職の役割は業務や進捗の管理から「意思決定・人材育成・組織変革」へ移っていくと考えています。この437名では、57.2%がすでに自分の役割が変わったと答えています。

空いた時間の使い道は、まだ「使うべき」の段階

AIで生まれた余力を「戦略・方針の検討」に使うべきだと答えた人は40.0%でしたが、これは今後の使い方についての意見で、実際の時間配分が変わったことを示す数字ではありません。負担が減った業務が3種類以上ある層では73.9%が役割の変化を感じていた一方、調査元は因果関係を示すものではないとしています。

管理職に期待される仕事は、方針を示し、部下と対話し、判断することへ移りつつあります。では、その対話の材料を、管理職はどこから得ればいいのでしょうか。

調査結果の読み方は、管理職の経験に任されてきた

エンゲージメント調査は、結果を受け取ったあとが難しい

部下との対話がもっとも求められる場面の一つが、エンゲージメント調査の結果が出たあとです。レゾナックは発表の中で、調査結果をどう解釈し、具体的な改善の行動につなげるかが、管理職個人の理解や経験に頼る部分が大きかったと書いています。

同じスコアを見ても、どの設問に注目し、職場で何を問いかけるかは人によって違います。経験の豊かな管理職は手がかりを見つけられても、初めて結果を受け取る管理職には、数字が並んでいるだけに見えるかもしれません。

設問の意図や改善のヒントは、社内に散らばっていた

同社は、各設問の意図や改善の観点についての社内の知見や資料が複数に分散しており、必要な情報を整理しながら使うには負荷がかかっていたことも課題に挙げています。

以前の記事(育成方針が現場に根づかないのは、管理職のせいなのか)でも触れたように、受けたことのない育成は、説明だけでは再現しにくいものです。調査結果の読み方も同じで、管理職の努力より先に、使える材料が手元に届いているかどうかが問われます。

レゾナックは、このすき間をどう埋めたのでしょうか。

レゾナックは、AIに答えより先に問いを出させた

管理職をひとりにしないために会社が用意できるのは、判断するための材料と、考えを整理する問いかけです。レゾナックは、人事が社内に蓄えてきた知見を整え、それをAIの問いかけとして管理職に届けました。調査結果の読み方を管理職ひとりの経験に任せず、判断を支える環境を先に作ったところに、この事例の良さがあります。

自部門の結果を入れると、課題と背景が整理される

レゾナックは2026年8月5日、生成AIを使った管理職向けのエンゲージメント改善支援アプリを自社で開発し、本格的に導入したと発表しました。2026年の全従業員を対象とした調査から運用を始め、今年度は国内の部下を持つ管理職約1,000名が対象です。

管理職が自部門の調査結果をアップロードすると、スコアや全体の傾向に加えて、重点的に取り組む課題と、その背景にある要因が整理されます。

AIが問いかけ、管理職自身の見立てとのずれを示す

このアプリの特徴は、その先にあります。管理職はAIとの対話を通じて、自分が職場をどう見ているか、何を課題だと感じているかを整理し、調査結果との認識のずれや改善のポイント、具体的な行動の案を得られます。

同社は、AIが一方的に答えを示すのではなく、社内の人事の知見や分析資料をもとに、管理職の意思決定を支える材料と視点を示す点を特徴に挙げています。調査結果を分析するだけで終わらず、管理職自身の考えを整理し、改善に向けた行動を検討するところまで支える。ここに、このアプリの特徴があります。

チームで話すテーマと学びの教材までつないでいる

さらに、学習コンテンツの提案や、チームでの議論を促すテーマの提示まで備えています。管理職がひとりで結論を出して職場に持ち帰るのではなく、職場の対話に戻すところまでが一つの流れとして設計されています。

次の図2は、これまで管理職ごとにばらつきがあった調査結果の解釈から行動の検討までを、AIで一貫して支えるという同社の設計を、導入の前と後で比べて示しています。

レゾナックのエンゲージメント改善支援アプリの活用イメージ
図2 本アプリ活用イメージ(出典:レゾナック「生成AIを活用した管理職向け従業員エンゲージメント改善支援アプリを開発・本格導入」(2026年8月5日))

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似た機能は、海外の商用サービスにもある

調査結果をAIで読み解き、管理職の改善の行動につなげる機能は、レゾナックだけのものではありません。Culture AmpのAI Coachは、調査結果から重点課題を絞り、管理職と一緒に行動計画をつくり、チームへの伝え方まで下書きします。Workday Peakon Employee Voiceも、推奨アクションに加えて、組織が独自に用意したアクションを管理職に届けられます。

そのなかでレゾナックの事例が目を引くのは、AIの機能そのものより、AIに参照させる知見を社内の人事が整えたところです。内製を選んだ理由は公表されていませんが、自社の設問の意図や改善の観点を、管理職が使える形にまとめた点に、この事例の重みがあります。

では、これだけの仕組みを、本格的な開発から約2か月強で動かせたのはなぜでしょうか。

2か月で作れたのは、人事が1年かけて準備していたから

本格的な開発は、2026年4月から約2か月強だった

同社によると、アプリの本格的な開発に着手したのは2026年4月で、約2か月強でシステムとして動き始めました。開発は社内で行っています。

その前に、人事の組織が1年余り知見と資料を整えた

短期間で動かせた背景には、人事の組織であるCHRO組織が約1年余りかけて進めた構想の検討と、AIが参照する知見・資料の整備がありました。AIを使うために必要な業務の知見を、開発に先立って整えていたことになります。

人事とITが、それぞれの持ち場を持ち寄った

開発は、CHRO組織とデジタル・ITを担うCDIO組織が連携して進めました。具体的な役割分担までは公表されていませんが、人事の側で整えた知見と資料を、ITの側でアプリとして形にした取り組みだといえます。

私がシステム開発に携わっていたころも、作るものが決まっていれば実装は速く進みました。時間がかかるのは多くの場合、業務の側で「あるべき姿」が決まっていないときで、その合意を関係者のあいだで得るのにも時間がかかります。レゾナックの2か月強は、その前の1年余りがあってこその速さだと読めます。

AI成果マップにレゾナックの公開情報を当てはめた図
図3 AI成果マップにレゾナックの公開情報を当てはめた図(レゾナックの2026年8月5日の発表をもとに筆者作成)

※画像はクリックで拡大できます

では、自社で参考にするなら、どこから始められるでしょうか。

筆者の考え:期待する仕事ごとに、判断の材料をそろえる

アクシスの調査で重要性が高まったと挙がった、方針・ビジョンの提示、部下との対話、意思決定・優先順位づけ。これらは新しい仕事というより、もともと管理職の仕事の中心にあったものではないでしょうか。資料の作成や情報の収集に追われて、そこに十分な時間を使えていなかった。AIで管理業務が軽くなることは、ようやく本来の仕事に向き合える機会なのだと思います。

そう考えると、問われるのは、空いた時間を本来の仕事に使えるだけの材料が、管理職の手元にあるかどうかです。レゾナックの事例は、その材料を会社の側でそろえた一つの形です。なお、今回の発表で紹介されているのはアプリの導入と機能で、導入後の職場の改善の進み具合や成果を示す数値は明らかにされていません。

もし自社で、調査のあとの職場での対話を管理職にお願いしているなら、次の順番で考えてみてはいかがでしょうか。

  1. 管理職に、より力を入れてほしい仕事を一つ選ぶ(例:エンゲージメント調査のあと、職場で話し合うこと)
  2. その判断に使える社内の知見が、どこに散らばっているかを書き出す
  3. AIを使うかどうかは、そのあとで決める

レゾナックも、知見を整えるほうが先でした。この事例は、人事が持っている知見を、約1,000名の管理職に届けようとする取り組みとも読めます。AIを入れるかどうかにかかわらず、人事が管理職をどう支えるかという、人事の仕事そのものの見直しにつながる話ではないでしょうか。

ただし、AIの提案が「スコアを上げるための施策の一覧」になってしまうと、以前の記事(エンゲージメントスコアは"上げにいく"ものではない)で書いた、数字を上げること自体が目的になる流れに戻ってしまいます。答えを渡すのではなく、問いかけで職場の状況を言葉にするレゾナックの設計は、その落とし穴を避ける一つの方法だと思います。参考にしてもらえる場面があれば幸いです。

【セルフチェック】管理職をひとりにしないための5項目

この記事の考え方を、自社のエンゲージメント調査の運用に当てはめてみるためのチェックリストです。正解を出すためのものではなく、立ち止まって考えるためのもの。気になった項目だけ拾ってもかまいません。各項目に、考えるときの手がかりを一言ずつ添えました。

  • AIで減った管理業務を、管理職ごとに把握しているか資料作成・情報収集・議事録
  • 管理職に力を入れてほしい仕事を、言葉にして伝えているか方針の提示、部下との対話、判断
  • 調査結果が届いたあと、管理職が使える材料があるか設問の意図、改善の観点
  • 人事の知見が、一か所にまとまっているか資料の置き場所と、更新する人
  • 管理職ひとりで抱えず、職場で話す場につながっているかチームで議論するテーマ

 

用語メモ

本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。

▶ エンゲージメント調査

従業員が仕事や組織にどの程度の意欲や愛着を持っているかを、アンケートで測る調査。複数の設問の結果から総合スコアを算出することが多い。

▶ CHRO・CDIO

CHROは最高人事責任者、CDIOは最高デジタル・情報責任者。本記事では、それぞれが率いる人事の組織と、デジタル・ITの組織を指す。

▶ 内製開発

システムを外部に委託せず、自社の社員が中心になって開発すること。業務を知る人と作る人の距離が近く、修正を重ねやすい。

 

出典・参考情報




 

※本記事は2026年10月26日時点で公表されている企業の発表と調査結果をもとに、一般的な情報提供を目的としてまとめたものです。各社の取り組みの詳細や効果については、出典の原文をご確認ください。

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