キャリア面談も研修も用意した。それでも、現場の働き方はあまり変わらない。キャリア自律を進めている人事の方なら、そんな手応えのなさを感じたことがあるかもしれません。
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キャリア自律と仕事の自律は、同じではない
企業が「キャリア自律」を掲げるとき、そこには2つの期待が重なっているのではないでしょうか。1つは、社員が自分の将来のキャリアを考え、主体的に選ぶこと。もう1つは、日々の仕事でも、自分で考えて成果を出すことです。
会社が用意するキャリア面談や研修は、前者を支えるものが中心になりがちです。一方、現場の管理職が日々求めているのは後者です。この2つをどうつなぐかが見えていなければ、施策を充実させても、現場の働き方は変わりにくいのではないでしょうか。
会社の期待には、2つの自律が重なっている
2つの自律を、少し分けて見てみます。
将来を考える自律は、どんな仕事をしたいか、何を学ぶかを、自分で考えて選ぶことです。会社はキャリア面談や研修、社内公募でこれを支えます。
仕事で成果を出す自律は、指示を待たずに自分で考えて仕事を進め、お客様に結果を届けることです。こちらを日々求め、育てているのは、現場の管理職です。
どちらも大切です。ただ、支えている人も、支える場も違うため、意識してつながなければ、別々の話として進んでしまいます。

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社員は、自分の将来の話として受け取っている
社員の側は、キャリア自律をどう受け取っているのでしょうか。リクルートマネジメントソリューションズが2021年に、従業員300人以上の企業で働く若手・中堅の社員613人に聞いた調査があります。
「自律的・主体的なキャリア形成」が何を意味すると思うかを複数回答で聞くと、「自分のキャリアの責任は自分にある」と考えることが64.6%、自分の価値観に基づいてキャリアを選ぶことが61.3%でした。多くの社員は、自分の将来の話として受け取っています。
同じ調査では、自律的なキャリア形成を求められることに、ストレスや息苦しさを感じる人が64.8%いました。一方で、自分自身は自律的にキャリアをつくりたいと答えた人は81.7%です。
自律そのものが嫌なわけではなさそうです。将来の話と、目の前の仕事とがどうつながるのかが見えないまま「自律して」と言われることが、負担になっているのかもしれません。
同じ言葉でも、受け取る人によって意味が変わる
同じ言葉が、人によって違う意味で受け取られることは珍しくありません。
「情けは人のためならず」は、本来「人に情けをかけておくと、巡り巡って自分のためになる」という意味です。ところが文化庁の「国語に関する世論調査」(平成22年度)では、本来の意味を選んだ人が45.8%、人に情けをかけて助けることは結局その人のためにならない、という本来とは異なる意味を選んだ人が45.7%でした。ほぼ半々に割れています。
「キャリア自律」も、どちらの自律を期待しているのかを言葉にしておかないと、掲げる側と受け取る側で、別々の意味が育っていきます。
では、仕事で成果を出す自律を求めている現場の管理職は、なぜ部下に仕事を任せきれないのでしょうか。
管理職は、任せたくても任せきれない
管理職は、部下に自律してほしくないわけではありません。お客様に結果を届ける責任があるからこそ、まだ任せきれない段階の部下には、フォローを続けざるを得ないのです。
現場には、お客様に結果を届ける責任がある
現場は学校ではありません。任せた仕事でお客様に迷惑がかかれば、その責任を負うのは上司です。
だから、まだ任せきれない段階の部下に対して上司がフォローするのは、怠慢でも過保護でもありません。責任を果たすための、正しい行動です。
「自律して」という掛け声だけでは、この結果への責任と、部下に任せることとの両立に、管理職がひとりで悩むことになります。
「自律した状態」だけが掲げられ、道のりがない
キャリア自律は、目指す状態です。最初からその状態にある人は、ほとんどいません。
ところが、目指す状態だけが掲げられ、そこまでの道のりが描かれていないことがあります。そうなると管理職は、「理想は分かる。でも、明日から部下に何を任せればいいのか」と戸惑います。
「一人前」の基準が見えないと、任せる範囲が広がらない
職場には、「ここまでできれば任せられる」という基準があるはずです。ただ、それが言葉になっていないことも少なくありません。
基準が見えないと、部下は何を伸ばせば任されるのかが分かりません。上司も、任せる範囲を広げるきっかけをつかみにくくなります。任せる基準を言葉にして共有できれば、部下は次に何を伸ばせばよいかが分かり、上司も任せる範囲を段階的に広げやすくなります。
任せきれないと、善意のお膳立てが増えていく
任せきれない状態が続くと、上司は先回りして段取りを引き受けるようになります。1on1の日程を調整し、話す議題を用意し、部下が迷う前に答えを伝える。どれも、部下が困らないようにという善意からです。
ただ、このお膳立てが続くと、部下は声がかかるのを待つようになります。待っている部下を見て、上司は「自分がやらないと動かない」と感じ、さらに細かく段取りをする。善意から始まったお膳立てが、部下が自分で考える機会を減らしていきます。

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では、管理職の事情とは別に、会社が用意しているキャリア支援の仕組みは、日々の仕事とつながっているのでしょうか。
キャリア支援の仕組みは、日々の仕事につながっているか
人事が用意した支援が、社員には支援として認識されていないことがあります。では、その支援は、社員の日々の仕事や成長に、どのようにつながっているのでしょうか。
用意した面談が、社員には支援として届いていない
日経リサーチとHR総研が2020年に、企業267社と社員1,213人に聞いた調査があります。
会社が実施しているキャリア自律の支援策を聞くと、「特にない」と答えた社員は36%でした。企業で同じ答えをしたのは16%です。
なかでも差が目立つのが、上司との面談です。「社員と上司による個別面談でのアドバイス」を支援策として挙げた企業は43%でしたが、社員は25%でした。面談の場はあっても、社員にはキャリアの支援として受け止められていないことがうかがえます。
面談で将来の話をしても、それが日々の仕事のどこにつながるのかが見えなければ、社員にとっては「話して終わり」になってしまうのかもしれません。
研修や異動も、日々の仕事と切り離されやすい
研修も同じです。受講率を目標の数字にすると、受けること自体が目的になりやすく、学んだことを仕事でどう使うかが後回しになります。
異動はどうでしょうか。以前の記事(スキルを見えるようにしたら、社員は社内を動けるのか)で取り上げたNTTグループでは、担当者の講演によると、社内公募を経た異動はグループ全体の数%で、9割以上は今も人事部が主導して決めています。
社内公募という選択肢があっても、実際の異動の多くは会社が主導しています。では、社員が今の仕事で積み重ねた経験や成果は、次の仕事を選ぶときに、どのように生かされているのでしょうか。
では、今の仕事の成果を、次の選択肢につなげていくには、どうすればよいのでしょうか。
今の仕事の成果を、次の選択肢につなげる
2つの自律をつなぐのは、今の仕事で成果を出し、信頼を得ることが、次の挑戦につながっていくという道のりです。この道のりを、人事と現場が一緒に描くことが出発点になります。
段階ごとに、何を任せるかを現場と描く
先ほどの「目指す状態までの道のり」を、具体的な段階にしてみます。
たとえば、まずは自分の仕事の段取りを任せる。次に、お客様対応の一部を任せる。やがて、仕事の進め方そのものを変える提案を任せ、その先に新しい役割への挑戦がある、という具合です。

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それぞれの段階に「一人前」の基準を添えておくと、部下は何を伸ばせば次に進めるかが分かります。上司も、結果への責任を手放さずに、任せる範囲を少しずつ広げられます。
キャリア面談の話を、今の仕事につなげて聞く
道のりは、日々の対話の中でも描けます。たとえばキャリア面談で、部下が「いずれは企画の仕事をしてみたい」と話したとします。
ここで「いいですね、応援しています」で終わると、将来の話は将来の話のままです。そこから一歩進めて、「その仕事に近づくために、今の仕事でどんな経験を積めそうか」を一緒に考える。
「今のお客様対応で、困りごとを集めて整理してみるのはどうだろう」「来月の改善提案を、まとめ役としてやってみる?」。そんな問いかけがあれば、部下にとって今の仕事は、希望する仕事への準備に変わります。上司にとっても、任せる範囲を広げるきっかけになります。
向かう先と守るものを示し、進め方は任せる
任せるときに伝えたいのは、細かな手順ではなく、向かう先です。
会社が目指していること、つまり北極星を共有し、倫理やお客様への約束といった、譲れないものを示す。そのうえで、北極星に合っていれば、今のやり方を変えることもむしろ歓迎する。航路は、本人に描いてもらうのです。
国の指針も、自律と支援を組み合わせています。厚生労働省の「職場における学び・学び直し促進ガイドライン」は、働く人の自律的・主体的な学びを重視しつつ、現場のリーダーが学びの方向性や目標を擦り合わせ、キャリア形成をサポートすることを、取組を成功させる「鍵」としています。あわせて、企業の中に伴走支援の仕組みを設けることが望ましいとしています。
次を見据えて改善を考えることが、仕事の自律
お膳立てを手放すといっても、上司がやっていた段取りを、そのまま部下に渡せばよいわけではありません。「1on1の日程は自分で入れてね」と担当を入れ替えても、やり方を上司が決めていることには変わりがないからです。
日程の調整ひとつ取っても、もっと手間の少ない方法はあるはずです。大切なのは、誰がやるかではなく、どうすればお互いの手間が減り、話す時間が濃くなるかを考えることです。上司の時間は、部下の育成やお客様への対応に使われるべきもの。上司に余計な仕事をさせないよう、メンバーが段取りをなくす工夫を考える。そういう文化のある職場では、自律は日々の工夫として育っていきます。
フォローを受けることも、悪いことではありません。フォローを受けたあとに、「次は、どこまで自分でできるようにするか」を考えることも、仕事の自律につながります。上司の側は、フォローのあとに、次に任せる範囲を部下と一緒に言葉にしておく。そうすると、フォローは尻ぬぐいではなく、次に任せるための材料に変わります。対話の進め方は、別の記事(成果が出ていないメンバーとの面談で、何を話すか)でも整理しました。
では、キャリア自律を進める人事は、何を大切にすればよいのでしょうか。
筆者の考え:キャリア自律は、今の仕事を軽く扱う理由ではない
会社の側にも、果たすべき責任があります。社員が成果を出せる環境を整え、その成果が次の選択肢につながる道のりを用意することです。将来を考える場だけを用意して、あとは本人に任せるのでは、キャリア自律の支援として十分とは言えません。
そのうえで、社員の側にも伝えたいことがあります。キャリア自律は、今の仕事を軽く扱う理由にはなりません。
目の前の仕事で成果を出し、信頼を積み重ねることは、次の挑戦への道を開くひとつの方法です。希望するキャリアと直接は関係がないように見える仕事でも、そこで身につけた経験や力が、あとになって別の仕事につながることがあります。
キャリア自律は、自分の希望に合う仕事が与えられるのを待つことではありません。今の仕事に主体的に関わり、工夫を重ねながら、少しずつ自分の向かいたい方向へ寄せていく。その経験を、次の選択肢につなげていくことでもあるのだと思います。
システムの仕事でも、何を目指すか(要件)と、守らなければならないこと(制約)を先に決め、作り方は作り手に任せます。ただ、大きな部分を任せられるのは、作り手が小さな成果を積み重ね、信頼を得てからです。人の成長も、同じ順番をたどるのではないでしょうか。以前の記事(承認は何のためにするのか)で、部下が「良い行動か」を自分で判断できるようにすることを書きましたが、その積み重ねが任される範囲を広げていきます。
キャリア自律を支援するとは、社員に将来を考えてもらうことだけではなく、目の前の仕事で成果を出し、その経験が次の選択肢につながる環境を整えることでもあります。
人事の方なら、次に現場の管理職と話すとき、「キャリア面談はできていますか」だけでなく、「部下が今の仕事で力を発揮し、次の挑戦に進むには、何が必要でしょうか」と聞いてみてはいかがでしょうか。今回の整理が、参考にしてもらえる場面があれば幸いです。
【セルフチェック】2つの自律をつなぐための6項目
この記事の考え方を、自社の制度や職場に当てはめてみるためのチェックリストです。気になった項目だけ拾ってもかまいません。各項目に、考えるときの手がかりを一言ずつ添えました。
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自社が「キャリア自律」で期待していることを、言葉にしている将来を考える自律と、仕事の自律のどちらを指しているか
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キャリア面談や研修が、日々の仕事とどうつながるかを説明できる社員から「話して終わり」と思われていないか
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「ここまでできれば任せる」という基準を、部下に伝えている部下が、次に何を伸ばせばよいかを言えるか
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段階ごとに何を任せていくかを、現場と一緒に描いている目指す状態だけでなく、そこまでの道のりがあるか
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フォローのあとに、次に任せる範囲を部下と話しているフォローが尻ぬぐいで終わっていないか
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上司が抱えている細かな段取りを、減らす工夫があるメンバーが段取りをなくす提案をできているか
用語メモ
本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。
▶ キャリア自律
働く人が、自分のキャリアを会社に任せきりにせず、自分で考えて学びや仕事を選んでいくことです。会社によって込める意味が異なるため、方針として掲げるときは、何を期待しているのかを言葉にしておくと、受け取り方のずれを減らせます。
▶ 1on1ミーティング
上司と部下が1対1で、定期的に話す面談です。業務の進み具合の確認だけでなく、部下の成長やキャリアについて話す場として使われています。
▶ 社内公募
社内のポストや仕事の募集を公開し、社員が自分の意思で応募できる仕組みです。会社が決める異動とは別の、本人が手を挙げて動く道筋になります。
出典・参考情報
※本記事は、2026年10月時点で公開されている調査や公的資料をもとに、筆者の考えを整理したものです。調査によって対象や時期が異なるため、数字は各出典の条件とあわせてご覧ください。自社の制度を見直す際は、職場の状況に合わせてご判断ください。