労務リスクと制度運用

男性育休は「取得率」から「取得期間」へ ― 2026年10月の労政審・検討項目案を読む

男性の育児休業取得率は50.9%となり、政府目標の50%に届きました。いま次の論点として出てきているのが、何日取ったのかを見る「取得期間」です。2026年10月2日に労働政策審議会の分科会へ示された検討項目案を、資料のデータとあわせて読んでいきます。

Contents

男性の育休取得率は50.9%となり、政府目標に届いた

令和7年度の取得率は50.9%で、小規模な事業所でも伸びている

厚生労働省の雇用均等基本調査によると、令和7年度の男性の育児休業取得率は50.9%でした。令和6年度の40.5%から10ポイント以上上がり、政府目標の「令和7年に50%」に届いています。

男性の育児休業取得率の推移(令和元年度から令和7年度)と政府目標
男性の育児休業取得率の推移(厚生労働省「雇用均等基本調査」をもとに筆者作成)

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伸びが大きかったのは、小規模な事業所です。令和6年度から7年度にかけて、従業員5〜29人の事業所は25.1%から42.9%、30〜99人の事業所は35.8%から49.9%になりました。資料も、99人以下の中小企業での伸びが大きいと説明しています。

令和4年の産後パパ育休の創設や、育児休業の個別の周知・意向確認の義務化など、制度が積み重なってきたことが、こうした伸びを支えているとみられます。資料に伸びの要因の説明はなく、ここは筆者の見方です。

政府目標は令和12年に85%で、取得率の目標はこの先も続く

目標は50%で終わりではありません。令和12年(2030年)には85%という目標が置かれています。

ただ、取得率は「取った人の割合」を数える数字です。取得率には、育児休業の開始予定の申出をしている人も含まれていて、何日取ったかは入っていません。では、取った人は実際に何日取っているのでしょうか。

取得期間では、男性は約6割が2週間以上3か月未満に集まる

男性の約6割は2週間以上3か月未満で、2週間未満も約2割いる

同じ調査には、取得期間の数字も載っています。令和7年度は、男性の20.9%が2週間未満、58.3%が2週間以上3か月未満、10.1%が3か月以上6か月未満、10.8%が6か月以上でした。女性は、93.0%が6か月以上です。

育児休業の取得期間の分布(男性・女性、令和7年度)
育児休業の取得期間(厚生労働省「令和7年度雇用均等基本調査」をもとに筆者作成)

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1か月以上取った男性は、全体で51.2%です。事業所の規模別にみても、500人以上で54.1%、5〜29人で47.2%と、小規模な事業所でも半数近くが1か月以上取っています。

産後パパ育休は、出生後8週間以内に4週間まで取れる枠組みである

産後パパ育休(出生時育児休業)は、子の出生後8週間以内に、4週間まで取れる枠組みです。令和4年10月に始まりました。育児休業を取った男性のうち、産後パパ育休を取った人は58.3%(令和7年度)です。

この枠組みと、取得期間の分布との関係は、資料には書かれていません。数字としては、短めの期間に取得が集まっていることと、産後パパ育休の利用が過半数であることの、2つが並んでいる、ということまでが言えます。

取得率が50%に届いた今、国はこの取得期間をどう扱おうとしているのでしょうか。

検討項目案は、取得期間の公表とくるみんの見直しを挙げている

論点は取得率だけでなく取得期間にも広がろうとしている

男性育休の論点は、取得率に加えて、取得期間にも広がろうとしています。2026年10月2日の労働政策審議会・雇用環境・均等分科会(第92回)に、「仕事と育児の両立支援に関する検討項目(案)」が示され、取得期間の公表と、くるみん等の認定基準への取得期間の導入が挙がったからです。ただし、各項目は「どのように考えるか」などと問う形で書かれており、法改正や施行が決まったものではありません。

公表の項目に「取得率に加えて」取得期間を入れるかどうか、という問いが立てられた形です。

仕事と育児の両立支援に関する検討項目(案)の一覧
検討項目(案)の一覧(厚生労働省「仕事と育児の両立支援に関する検討項目(案)」をもとに筆者作成)

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公表項目に、取得期間を加えるかどうかが問われている

現在は、男性の育児休業等の取得割合を、年に1回、インターネットなどで公表する形がとられています。育児休業等に、育児を目的とした休暇制度を使った人を合わせた割合で公表する方法もあります。対象は、令和5年4月に常時雇用する労働者が1,000人を超える会社から始まり、令和6年の改正で、令和7年4月から300人を超える会社に広がりました。

検討項目案は、この公表項目に、男性の育児休業取得率に加えて「取得期間も追加すること」を挙げています。追加の対象は、常時雇用する労働者数が1,000人を超える会社とされています。いまの取得率の公表義務は300人超の会社まで広がっているので、取得期間は、対象を絞った形の案になっています。

ただ、取得日数の公表は、まったく新しい話ではありません。両立支援等助成金には、「両立支援のひろば」というサイトで、男性の育児休業等取得率、女性の育児休業取得率、男女別の平均育休取得日数を公表すると2万円が加算される仕組みが既にあります。

くるみん基準は、取得率の引き上げと取得期間の導入が挙がっている

くるみん認定は、子育てサポート企業として国が認める制度です。男性の育児休業等取得率の基準は、くるみんが30%以上(育児を目的とした休暇を合わせる場合は50%以上)、プラチナくるみんが50%以上(同じく70%以上)、トライくるみんが10%以上(同じく20%以上)です。

検討項目案は、男性の育児休業のさらなる取得促進に向けて、この基準を見直すことを挙げています。見直す点として書かれているのは、取得率の基準の引き上げ、取得期間に関する基準の導入、中小企業特例の見直しの3点です。具体的な数字は、案には示されていません。労働者数300人以下の会社には、いまも複数の特例があります。たとえば、計画期間内に男性の育児休業等の取得者がいなくても、ほかの条件を満たせば基準を満たすとみなす特例です。案は、どの特例をどう見直すかまでは書いていません。

取得期間は、くるみんの基準にまったくないわけでもありません。令和7年4月以降の基準では、成果に関する具体的な目標を定めて実施する措置の一つに、「男性の労働者の育児休業等の取得期間の延伸のための措置」が挙げられています。これまでは措置の面で触れていた取得期間を、数字の基準としても見るかどうか、という検討です。

認定を受けた企業には、公共調達での加点評価、日本政策金融公庫による低利融資、賃上げ促進税制などの優遇措置があります。基準が変わると、会社の取り組みの優先順位にも影響する可能性があります。

では、国はなぜ、取得期間を問題にしようとしているのでしょうか。

取得期間が問われる理由は、4つ読み取れる

検討項目案そのものには、取得期間を問う理由は書かれていません。同じ日の資料1-1に並んでいるデータから、理由として読み取れる材料を整理します(筆者整理)。

取得率だけでは取り方の違いが見えにくくなった

取得率は、取得した人を1人と数える数字です。2週間未満の人も、3か月以上の人も、同じ「取得した1人」になります。取得率が50%に届いたいま、その中身にあたる取得期間を見ようとする流れは、自然に出てくると考えられます。

希望より短かったと答えた男性が、約3割いる

育児休業や産後パパ育休を取った男性(正社員・職員)に、希望どおりの日数を取れたかをたずねた調査があります(令和7年度の厚生労働省委託調査、回答者181人)。「希望どおりだった」は56.9%、「希望より短かった」は29.3%でした。

希望どおりの時期・期間に取れなかった男性(回答者58人)にその理由をたずねると、「自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから」が39.7%でもっとも多く、「職場の人手が不足していたから」が27.6%で続きました。回答者が少ないので、傾向として見る数字です。

就職・転職活動で、男性の育休取得日数を知りたい人がいる

共育プロジェクトの若年層の意識調査(2026年7月公表、速報、回答者15,845人)では、就職や転職の活動で企業について知りたい情報として、「男性の育休取得率」が男性回答者の35.4%、「男性の育休取得日数」が23.3%でした。資料は、男性は取得率と取得日数を知りたい割合が高い、と整理しています。

また、取り組みが公表されていると就職したい気持ちが高まる情報として、男性の育休取得率・日数等については、回答割合が男女でほぼ同水準だったと説明しています。取得期間は、働く人が会社を選ぶときの材料の一つになっています。

夫の家事・育児時間が長い層で、妻の継続就業と第2子以降の出生の割合が高い傾向がある

資料は、6歳未満の子を持つ日本の夫の家事・育児関連時間が1日あたり1時間54分(2021年)で、国際的にみて低水準だと示しています(比べている国の調査年は、それぞれ異なります)。そのうえで、厚生労働省の21世紀成年者縦断調査から、夫の家事・育児時間が長いほど、妻の継続就業や第2子以降の出生の割合が高い傾向がある、と整理しています。

資料の図は、時間区分が細かく、見えにくい部分があります。そこで、人数の少ない「なし」の区分を「2時間未満」に含めて集計し直し、人数を添えて作り直しました。資料の図では、「なし」は別の区分として示されています。

夫の家事・育児時間別にみた妻の同一就業継続割合と第2子以降の出生割合
夫の家事・育児時間と、妻の継続就業・第2子以降の出生(厚生労働省「第13回21世紀成年者縦断調査(平成24年成年者)の概況」をもとに筆者作成)

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ただ、この調査が聞いているのは、育児休業の長さではなく、1日の家事・育児の時間です。割合に差があることは言えますが、時間の長さが結果の原因だとまでは、この調査からは言えません。夫の家事・育児時間の長い家庭は、もともと別の条件にも恵まれている、ということも考えられるからです。妻が働き続けているから夫が家事・育児を担う、という逆の向きも考えられます。

そのうえで、夫の家事・育児時間が家庭にとって大事だとすれば、育児休業の長さもそこに関わるのではないか、という想定は成り立ちます。取得期間を問う背景には、こうした想定があるのかもしれません(筆者整理。資料にそう書かれているわけではありません)。

4つの材料は、取得期間が、取った人の希望、働く人の会社選び、家庭の分担といった、取得率の外側の話につながっていることがうかがえます。では、この検討はいつ決まるのでしょうか。

決まるまでには、先例で建議から施行まで1年以上かかっている

検討項目案は、法改正の入り口にあたる段階である

資料1-1には、令和3年の改正法の附則にある検討規定が載っています。施行後5年を目途に、男性労働者の育児休業の取得状況などの変化を勘案して検討を加え、必要があれば措置を講じる、という内容です。5年後は令和9年にあたります。

今回の検討項目案は、この検討の流れの中にあります。まだ問いかけの段階で、意見が出そろい、まとまっていくのはこれからです。

令和6年改正は、建議から令和7年4月の施行まで約1年3か月かかった

直近の大きな改正の流れを見ると、今回の位置が分かります。令和6年の改正では、労働政策審議会が令和5年12月26日に建議(審議会が厚生労働大臣へ出す意見)をまとめました。そこから約5か月後の令和6年5月31日に法律が公布され、主な改正事項の施行は令和7年4月1日と10月1日です。施行日は、項目ごとに分かれていました。

令和6年改正の経過と、今回の検討項目案の現在地
令和6年改正の経過と今回の現在地(厚生労働省「第92回雇用環境・均等分科会 資料1-1」などをもとに筆者作成。今回の見通しは筆者によるもの)

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令和3年の改正は、令和3年6月9日に公布され、主な施行日は令和4年4月1日、令和4年10月1日、令和5年4月1日と分かれていました。公表の義務付けは、このうちもっとも遅い令和5年4月1日で、公布から約1年10か月です。公表の義務付けは、施行までに時間をかけた例があります。

令和6年改正を参考にすると、施行は令和10年春ごろの想定(筆者の見通し)

令和6年改正を参考にすると、今回の施行は、令和10年(2028年)の春ごろと想定されます。ここからは、先例を当てはめた筆者の見通しです。建議が令和8年中にまとまり、法律の改正を伴い、令和6年改正と同じペースで進んだ場合、公布は令和9年の初夏ごろ、主な施行は令和10年春ごろになります。令和6年改正の主な施行が4月1日だったことも、春ごろとみる理由です。

実際には、この通りに進むとは限りません。建議の時期が変われば全体がずれますし、法律ではなく省令や指針の改正で済む項目があれば、決まる時期も施行も変わります。とくに、公表する項目の中身や、くるみんの認定基準は、省令で定められている部分があります。取得期間の2項目が省令の改正で足りる場合は、令和6年改正のペースは当てはまらず、時期が早まることも考えられます。令和6年改正でも、施行日は項目ごとに異なっていました。確実に言えるのは、決まるまでに時間がある、という点だけです。

決まる前でも、自社の取得期間の分布は、手元の記録から出せます。この記事の最後のチェックリストに、確認する観点をまとめました。その前に、取得期間をめぐる議論について、筆者が考えていることを書きます。

取得期間は長いほうがよい。育休取得者が不利にならない設計とあわせて

長いほうがよい理由は、家庭内で母親と父親の役割を対等にできるから

取得期間は、長いほうがよいと考えます。理由は、家庭の中で、母親と父親の役割を対等にできるからです。

社会の男女平等は、家庭の中の平等とセットで進む

社会の中で男女平等がなかなか進まない背景には、家庭の中の不平等が残っていることがあると考えます。家庭が不平等なまま、社会だけ平等を求められると、女性の負担が重くなると考えるからです。社会で男女平等を進めるなら、家庭の中でも男女平等にすることが、もっとも合理的だと思います。

子の成長は速く、一部の期間だけでは育児の主体が変わりにくい

生後3か月ごろと、1歳ごろとでは、子の状態も、必要な世話も大きく変わります。成長の変化が速い時期の一部だけを取っても、育児の主体が母親になりやすい構造は、変わりにくいと考えます。育児休業の期間を男女で近づけることが、お互いの役割と責任を対等にすることにつながると考えます。

データは、この考えと矛盾しないが、証明まではしていない

資料が示す、夫の家事・育児時間の短さ(6歳未満の子を持つ夫で、1日1時間54分。2021年)は、この見方と矛盾しません。ただし、この数字だけで、構造の原因までは言えません。

取得日数との関係を示す調査もあります。積水ハウスの「男性育休白書2025」(2025年6月調査)は、家事・育児を何もしない育休を「とるだけ育休」と呼んでいます。男性の育休がこれにあたると見なされた割合は、取得が1週間未満の場合は45.0%、1週間以上1か月未満は38.4%、1か月以上は30.3%でした(男性の育休取得についての回答2,438件。資料は回答者の内訳を示していません)。長く取った場合ほど、「とるだけ」と見なされにくい結果です。ただ、測っているのは「とるだけ育休」と思うかどうかで、役割の対等さそのものではありません。

海外の研究も、結果は一つに定まっていません。父親向けの休業の枠を設けた制度改正のあと、役割の分担や父親の関与の変化が続いたとする研究(カナダ・ケベック州、ドイツ)がある一方で、子の看病のための休暇の取り方でみると変化がなかったとする研究(スウェーデン)もあります。いずれも制度改正の効果を見た研究で、期間の長さを比べたものではありません。ここに書いているのは、データで証明された結論ではなく、筆者の考えです。

期間と同じくらい中身が大事で、夫婦のすり合わせが鍵になる

期間と同じくらい、休業中に何を担うかが大事だと考えます。育児と家事の全体を母親が管理し、手が回らない部分を父親が受け持つ、という分担のままでは、期間が長くても、役割が対等になったとは言いにくいからです。ただ、そうなりやすいのは、個人の姿勢の問題というより、準備のないまま休業が始まることが多いからではないでしょうか。

3か月取得した知人の一言から、担うことの大きさを教わった

身近に、男性で約3か月の育児休業を取った知人がいます。その方は、「休業なのに全く休めない。仕事より大変だった」と話していました。育児を自分のこととして担うと、休めないほど大きな仕事になる。そのことを、実感のこもった言葉で教わりました。

育休中の家事・育児が1日2時間以下だと、分担への納得は取らない場合より低い

日本財団とコネヒト株式会社が2019年に行った調査では、夫が育休を取った母親508人のうち、育休中の夫の家事・育児時間が1日2時間以下だった人が164人と、約3割いました。家事や育児の役割分担が「双方納得できるカタチでできている」と答えた母親の割合(「とてもできている」「まあまあできている」の合計)は、夫の育休中の家事・育児時間が5時間を超える場合(161人)は93.2%、2時間以下の場合(164人)は48.8%です。夫が育休を取らなかった場合(3,391人)の58.0%を、2時間以下の場合が下回っています。

この調査は2019年のもので、男性の育休取得率が1割に満たなかった時期の数字です(令和元年度の雇用均等基本調査で7.48%)。育児アプリを使う母親への調査でもあり、いまの全体を代表する数字ではありません。

2025年の調査では、育休を取った男性の半数が「何をすればよいか分からなかった」

より新しい調査として、先ほどの「男性育休白書2025」があります。育休を取った男性1,271人の53.6%が、「育休取得前、取得中に何をすればいいのか正直分からなかった」と答えています。何をすればよいかが分からないまま始まっている人が、半数いるということです。

妻の側の受け止めは、良い方向に動いています。夫が育休を取った女性1,167人のうち、夫の育休が「とるだけ育休」になっていたと「思わない」人は43.5%で、前年の33.5%から10ポイント増えました。「思う」は39.5%です。

育休に満足していた人ほど、取得の際に役割分担を確認していた

同じ調査は、夫婦の話し合いとの関係も示しています。育休の取得期間中の満足度で分けた「満足層」(1,635人)では、育休を取得する際に「育休中の役割分担の確認」ができていた割合が70.6%でした。「不満足層」(803人)では35.9%です。「育休取得期間の確認」も、88.1%と57.4%で、差があります。

育休を生かせるかどうかは、取る人ひとりの頑張りより、取得の際に夫婦ですり合わせているかどうかと、関わりがありそうです。企業が行ったインターネット調査で、参考として見る数字ですが、取る前に休業中の役割を話し合っておくことが、長さを生かす条件になると考えます。会社の側も、取得前に夫婦で話し合うきっかけをつくることで、後押しができると考えます。

育休取得者のキャリアが不利にならないよう、評価の仕組みを見直す

取得を長くしたいなら、育休取得者のキャリアが不利にならないことが、前提になると考えます。個人の覚悟に任せるのではなく、会社の側が、評価や昇進の仕組みを見直すことが大事です。

取らなかった理由として、キャリアへの悪影響を挙げる人は多くない

資料1-1には、育児休業を取らなかった男性(正社員・職員、833人、複数回答)に理由をたずねた結果が載っています。もっとも多いのは「会社で育児休業制度が導入されていなかったから」の29.1%で、「収入を減らしたくなかったから」が26.4%、職場が取得しづらい雰囲気だった、または会社や上司、職場の理解がなかった、が18.2%、「他の両立支援制度を利用したから」が15.7%、「自分にしかできない仕事や担当している仕事があったから」が11.5%と続きます。「昇給や昇格など、今後のキャリア形成に悪影響がありそうだと思ったから」は5.6%です。取らなかった男性のうち、キャリアへの悪影響を理由に挙げた人は、多くありません。

取った後に、評価や昇進で不利が生じることがある

ただ、取る前は気づいていなくても、取った後に不利が生じることがある、と考えています。厚生労働省のパンフレット「育児・介護休業法のあらまし」は、認められない制度の例を挙げています。昇格の要件が「3年連続A以上の評価であること」となっている会社で、育児休業をはさんだ人について、復帰後の年度を3年目として扱わず、そこから改めて3年連続のA以上の評価を求める、という制度です。

自分にしかできない仕事があり、人手も足りない職場で「育休を取ります」と言えば、キャリアにとって損になるのではないか。取る側は、そう想像します。会社の側にも、この想像力を持ってほしいと思います。

先ほどの「男性育休白書2025」では、育休を取った男性1,271人のうち17.1%が、取得期間中の悩みとして「職場復帰後の仕事に対する不安があった(ブランク・評価など)」を挙げています(複数回答)。資料1-1とは別の調査なので、数字をそのまま比べることはできませんが、取った人の中に、評価への不安を感じた人が一定数いることは分かります。

休んだ期間を超える不利益は、指針と裁判例が認めていない

この点は、会社の裁量だけの話ではありません。厚生労働省の指針(平成21年厚生労働省告示第509号)は、育児休業をした人について、休業期間を超える一定期間、昇進・昇格の選考対象としない人事評価制度とすることを、不利益な評価にあたるものとして挙げています。先ほどの「3年連続」の例は、この指針の具体例として示されているものです。

裁判例もあります。ある病院の就業規則に、前年度に3か月以上の育児休業を取った人は、翌年度の職能給を昇給させない、という定めがありました。3か月以上の育児休業を取った男性看護師が、昇給を見送られ、昇格試験の受験も認められなかった事案です。大阪高等裁判所は、1年の4分の1にすぎない3か月の休業を理由に、残り9か月の働きぶりにかかわらず昇給させないのは、休んだ期間を超えて不利益を課すものだとして、育児・介護休業法が禁じる不利益な取扱いにあたり、無効と判断しました。昇格試験を受けさせなかったことも、違法としています(医療法人稲門会(いわくら病院)事件、平成26年7月18日判決)。

見るべき点は、休んだ期間を超えて、不利に扱う仕組みになっていないか、です。

仕事か家庭かを、個人に選ばせない設計へ

検討項目案は、「その他」の対応の例として、短時間勤務制度等の利用者を適切に評価することの促進も挙げています。育児休業の取得者そのものを対象にした項目ではありませんが、育児と両立する人の評価の仕組みが論点になっている点は同じです。

個人に、仕事か家庭かを選ばせない設計が、会社の側に求められていると考えます。「仕事が大事か、家庭が大事か」という二択の論争は、これ以上繰り返さなくてよいと思います。家庭も円満で、仕事のキャリアも心配なく築いていける。そのような状態を、男女を問わず実現できる社会が、理想ではないでしょうか。

【セルフチェック】自社の男性育休を取得期間から確かめる6項目

この記事の考え方を、自社の制度と運用に当てはめてみるためのチェックリストです。正解を出すためのものではなく、立ち止まって考えるためのもの。気になった項目だけ拾ってもかまいません。各項目に、考えるときの手がかりを一言ずつ添えました。

  • 男性の育休の取得率だけでなく、取得期間の分布も出せますか資料の区切り(2週間未満、2週間以上1か月未満、1か月以上3か月未満など)が目安になります
  • 取得期間を、部門や職位ごとにも見られますか平均だけでは、短い取得に偏る部署が見えません
  • 取得率と取得期間で、数える対象の違いを整理していますか国の調査では、取得期間は調査前年度に育休を終えて復職した人が対象で、取得率とは対象が異なります
  • 個別の周知・意向確認のときに、取りたい期間の希望も聞いていますか希望より短くなったかどうかは、希望を聞いていないと分かりません
  • 期間が短くなる理由を、職場の側から把握できていますか調査では、自分にしかできない仕事と人手不足が上位の理由でした
  • 取得中の引き継ぎと、代わりに担う人の手当てを決めていますか業務の分担や代替の仕組みがあると、取得期間の希望を聞きやすくなります

 

用語メモ

本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。

▶ 労働政策審議会(雇用環境・均等分科会)

労働者代表、使用者代表、公益委員で構成される、厚生労働大臣の諮問機関です。雇用環境・均等分科会は、育児・介護休業法など、雇用環境や男女の均等に関する制度を議論します。

▶ 建議

審議会が議論をまとめ、厚生労働大臣に対して「こうしてはどうか」と示す意見です。令和6年の改正では、分科会の報告を受けて、令和5年12月26日に建議が行われました。建議のあと、法律の改正が必要なものは、国会での審議に進みます。

▶ 産後パパ育休(出生時育児休業)

子の出生後8週間以内に、4週間まで取れる育児休業の枠組みです。通常の育児休業とは別に取れ、2回に分けて取ることもできます。令和4年10月1日に始まりました。

▶ くるみん・プラチナくるみん・トライくるみん

次世代育成支援対策推進法にもとづき、子育てサポート企業として国が認定する制度です。基準を満たすとくるみん、より高い水準を満たすとプラチナくるみんとなります。トライくるみんは、令和4年に加わった入り口の認定です。

▶ 育児休業取得率(雇用均等基本調査)

調査前年の9月30日までの1年間に配偶者が出産した男性のうち、調査年の10月1日までに育児休業を開始した人(開始予定の申出をしている人を含む)の割合です。令和7年度の調査では、令和5年10月1日から令和6年9月30日までの出産が対象です。令和5年度以降は産後パパ育休を含みます。

▶ 同一就業継続

21世紀成年者縦断調査の用語で、2つの時点で、勤め先と就業形態が変わっていないことをいいます。出産の前後で同じ勤め先・同じ就業形態で働いていれば、「同一就業継続」になります。

出典・参考情報














Patnaik, A. (2019) "Reserving Time for Daddy: The Consequences of Fathers’ Quotas," Journal of Labor Economics/Tamm, M. (2019) "Fathers’ parental leave-taking, childcare involvement and labor market participation," Labour Economics/Ekberg, J., Eriksson, R., Friebel, G. (2013) "Parental leave — A policy evaluation of the Swedish ‘Daddy-Month’ reform," Journal of Public Economics

 

※本記事は、2026年10月7日時点で公開されている厚生労働省の資料をもとに、一般的な情報提供を目的として書いたものです。検討項目案は審議会で検討するための案で、法令の改正や施行が決まったものではありません。「筆者整理」「筆者の見通し」と書いた部分は、公開されている資料や先例から筆者が考えたもので、実際の内容や時期とは異なる場合があります。個別の制度運用の判断は、専門家にご相談ください。

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