勤め先が「原則出社」だと答える正社員が、2年続けて増えています。一方で、テレワークをしている人の8割は、続けたいと考えています。会社と働く人のあいだのこのずれは、どこから来るのでしょうか。
この記事では、原則出社が目指しているものを確かめたうえで、出社が成果と人材にどう効いていて、何と引き換えになっているのかを、調査と研究から見ていきます。
Contents
「原則出社」は増え、在宅を続けたい人は8割いる
「原則出社」の指示が出ている人は、2年続けて増えた
パーソル総合研究所の調査(2026年7月、正社員26,014人)では、勤め先のテレワークの方針について「原則出社の指示が出ている」と答えた人は24.6%でした。2024年の20.9%から、2025年の22.8%、2026年の24.6%と2年続けて増え、2026年はすべての企業規模で前年を上回りました。
同じ調査で、正社員のテレワーク実施率は21.4%です。最も高かった2022年2月の28.5%から、7.1ポイント下がっています。

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テレワークをしている人の8割は、続けたい
一方で、同じ調査でテレワークをしている正社員(5,565人)のうち、「続けたい」「やや続けたい」を合わせて81.6%が、続けることを望んでいます。この割合は、2020年後半からずっと8割前後です。
別の調査(Job総研、2026年3月)で、出社が増えると答えた247人に理由を聞くと、最も多かったのは「会社の方針が変わった」(39.7%)でした。出社の増加は、会社の方針によるところが大きいようです。
では、会社は原則出社によって、何を得ようとしているのでしょうか。
原則出社が目指すのは、判断の速さとチームへの関わり
その場で決めて、すぐに動くために
近くにいれば、相談を呼び出す手間がほぼなくなります。その場で聞いて、その場で決め、すぐに動く。判断と実行のサイクルを速く回せることは、成長が速い組織ほど大きな強みになります。
会議の経緯や決めた理由、一部の人の頭の中にある判断の基準が記録されていないときは、なおさらです。その人の近くにいることが、一番速い情報の取り方になるからです。
チームの成果に、当事者として関わるために
もう一つは、チームへの関わり方です。自分の担当だけでなく、チームが今何に困っているのかを感じ取り、すぐに手を貸せる。チームの成果に、当事者として全身で関わる姿勢を、同じ場所で働くことで育てようとしているのです。
速さとチームへの関わりを求める考え方には、筋が通っています。
目的と手段がひとつになると、すれ違いが起きる
ただ、目的と手段がひとつになると、「リモートも選びたい」という声が、速さやチームへの関わりを軽んじているように受け取られてしまうことがあります。目的は同じでも、それを果たすやり方が人によって違うだけかもしれません。
それに、相談を呼び出す手間がないことは、聞かれる側の時間を何度も切ることでもあります。
では、出社は成果と人材にどう効いていて、何と引き換えになっているのでしょうか。
研究では、在宅でも成果を保ち、集中と時間を生んだ
研究を見ると、在宅と対面には、それぞれ別の効き目があります。在宅には、成果を保ったり高めたりできた例があり、集中できる環境と通勤のない時間を生みます。対面は、若手の学びと部署をまたぐつながりを支えます。そして出社を一律に義務にすると、経験の長い人が辞めていくことがあります。
原則出社にするだけでは、成果も人材も守れるとは限りません。大切なのは、仕事と人に合わせて、在宅と対面の効き目を組み合わせることです。
週2日の在宅でも、成果と昇進は変わらなかった
スタンフォード大学のニコラス・ブルーム教授らは、中国の旅行会社Trip.comの社員1,600人超を、誕生日の日付で機械的に2つのグループに分け、出社の日数を変える実験を行いました。
週2日を在宅にしたグループは、毎日出社したグループと比べて、業績評価や昇進に有意な差は見られず、離職率は33%下がりました(2024年6月、科学誌Natureに掲載)。離職率が下がったのは管理職以外の社員で、管理職では有意な差は見られませんでした。同じ成果のまま、辞める人が減るのです。
集中する仕事は、在宅で成果が上がることもある
ブルーム教授らは、それより前の2015年にも、同じ会社のコールセンターで実験を行っています(経済学の学術誌QJEに掲載)。在宅に割り当てられた社員は、出社した社員より成果が13%上がりました。
休憩や病欠が減って働く時間が増えたことに加え、静かな環境で、1分あたりにこなせる電話の数が増えたためです。離職はほぼ半分になりました。ただし、成果に比べて昇進は少なかった、という結果も出ています。
通勤がない分の時間が、仕事と家庭に回る
27か国の働く人を調べた研究(2023年、アメリカ経済学会の論文集に掲載)では、在宅で働く日は、1日平均72分の通勤時間が浮いていました。
その時間の約4割は仕事に、約1割は育児や介護に使われていました。在宅は、働く時間を増やしながら、生活の側にもゆとりを生んでいるのです。
では、対面には、どんな効き目があるのでしょうか。
対面は学びとつながりを支え、義務化は人を手放す
近くで働くと、若手の学びが増え、経験者の時間が使われる
アメリカの大企業のソフトウェアエンジニアを調べた研究(2026年に経済学の学術誌に掲載)では、同僚の近くで働くことで、コードへのフィードバックが約18%増えると推定されました。特に、若手や入社まもない人ほど、その効果は大きく見られました。
一方で、近くで働くと、経験のあるエンジニアが書くコードの量は減りました。若手の指導に時間を使っているためと考えられています。対面は、若手の学びを増やす代わりに、経験者の時間を使うのです。
全員がリモートだと、部署をまたぐつながりが細る
Microsoftの社員を調べた研究では、コロナ禍で全社が一斉に在宅勤務になったあと、協働の時間のうち、部署をまたぐ相手と過ごす割合が約25%下がり、組織が縦割りになりやすくなりました(2021年、科学誌Nature Human Behaviourに掲載)。
在宅でも、人と協働することは十分にできます。この研究から読み取れるのは、在宅では、ふだん接点のない相手とのつながりは意識してつくらないと細りやすい、ということです。
出社の義務化で、経験豊富な社員が流出するおそれ
一方で、対面の効き目を求めて出社を一律に義務にすると、別の代償が生まれることがあります。シカゴ大学とミシガン大学の研究者は、出社を義務にしたMicrosoft、SpaceX、Appleの3社について、約2億6,000万件の経歴データを分析しました(査読前のワーキングペーパー)。
その結果、出社の義務化のあと、勤続年数の長い社員や、役職の高い社員の割合が下がる傾向が見られました。研究者は、その背景に、社員がより規模の大きい直接の競合企業へ転職していることがあるとみています。辞める人が「いなくてもよい人」とは限らず、仕事の知識を持った人ほど出ていく可能性があるのです。
では、こうした結果を踏まえると、組織はどんな働き方を目指せばよいのでしょうか。
筆者の考え:働き方を選べることは、成果を生む条件
力を出せる走り方は、人と人生の局面で違う
2024年のブルーム教授らの研究で、在宅の組み合わせによって離職が特に減ったのは、女性や通勤時間の長い人でした。育児や介護、自分の体調の変化のように、人には働き方を変えたい時期が、いつか訪れます。
そのたびに人が辞めてしまえば、組織はその人が培ってきた知識や経験を失います。
そもそも、思いきり走る走り方は、人によっても、人生の局面によっても違います。同じ場所で顔を合わせながら力を出す人もいれば、在宅で、集中して考える時間とオンラインでの協働を組み合わせて力を出す人もいます。在宅を選ぶことは、走りたくないという意味ではありません。
私自身、限られた時間で成果を出すために、仕事の進め方や仕組みそのものを深く考える人たちを、多く見てきました。
合わない走り方を一律に求めれば、その人が出せたはずの成果が失われます。会社にできるのは、一人ひとりが思いきり走れる地形を用意することです。人を入れ替えるのではなく、局面に合わせて走り方を切り替えながら、長く成果を出せるようにする。ライフサイクルを見据えた組織とは、そういう姿ではないでしょうか。
経験者の時間を、全員の新しい学びに使う
もう一つ問い直したいのは、経験者の時間を何に使うかです。変化の速い今は、一度覚えたことを受け継げば終わり、という時代ではありません。経験者自身も、新しいことを学び続ける必要があります。
今ある知識は記録し、AIも使って誰でも引き出せるようにする。対面では、記録だけでは伝わらない判断の仕方を学び合う。そして、経験者も若手も一緒に新しい課題に向き合い、次の知識をつくっていく。知識を残すこと、判断の仕方を学び合うこと、次の知識をつくることを分けて考えると、AIと対面の役割が見えてきます。
出社の日数ではなく、生み出す成果を問う
情報共有や意思決定のための会議には、オンラインで十分に進められるものも多くあります。通勤の時間まで含めて考えると、会議のためだけに集まるのは、成果の面ではむしろマイナスになることもある、と私は考えています。対面が生きるのは、相手の人となりや、根っこにある価値観を知るような場面ではないでしょうか。
在宅には在宅の、対面には対面の効き目があります。全員の働き方を一律に決めてしまうと、仕事ごとにどちらが合うかを考える機会そのものがなくなります。それぞれの効き目を、仕事と人に合わせて組み合わせることが、成果を上げる近道ではないでしょうか。
出社の方針を考えるときに問い直したいのは、出社する日数ではなく、そこで何を生み出すのか、です。
では、AIの時代に、人は何を生み出すことに力を注げばよいのでしょうか。続きの記事(AI時代のハードワークとは何か ― 「原則出社」から、深く考え、難しい判断を引き受ける働き方へ)で考えています。
以前の記事(AI時代、人事は何から見直せばいいのか ― 組織設計の5つの要素で考える)でも触れたように、働く場所は、一人ひとりの成果を支える組織設計の一部です。出社の方針を見直すとき、この記事を参考にしてもらえる場面があれば幸いです。
【セルフチェック】その出社は何のため? 5つの問い
出社の方針が、成果のための手段として働いているかを確かめるための問いです。すぐに答えられない項目があれば、そこが見直しの入口になります。気になった項目だけ拾ってもかまいません。
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「なぜ出社なのか」を、仕事の種類ごとに一文で説明できる答えが「そのほうがいいから」なら、もう一段掘る
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出社にして上がった成果を、数字で示せる方針を変えた前後の成果と、勤続年数・役割ごとの離職
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その会議をオンラインに変えたら、何を失うかを挙げられる挙げられなければ、集まる理由は別のところにある
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出社した日に、その場でしか生まれなかったものを言えるオンラインでもできる仕事だけで終わった日はないか
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評価を、近くで見えているかではなく、判断と成果で決めている在宅の多い人の評価が、理由なく下がっていないか
用語メモ
本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。
▶ ランダム化比較試験
対象者をくじなどで無作為に2つ以上のグループに分け、条件の違いによる効果を比べる方法です。グループ間のもともとの差が入りにくいため、効果を確かめる方法として信頼性が高いとされます。
▶ 原則出社
出社して働くことを基本とし、在宅勤務は例外として認める方針のことです。この記事で紹介したパーソル総合研究所の調査では、勤め先のテレワークの方針を尋ねる選択肢の一つとして使われています。
出典
※本記事は、2026年10月時点の公開されている調査・研究をもとにした一般的な情報提供です。海外の研究の結果が、すべての職場に当てはまるとは限りません。自社の働き方や人事制度の見直しを検討する際は、専門家にご相談ください。