夜や休日に、仕事のチャットを開いてしまうことはないでしょうか。2026年10月14日の労政審・労働条件分科会で論点に挙がった「つながらない権利」について、時間外の連絡の実態と、会社が先に決めておけることを読み解きます。
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時間外の連絡は、ルールのない「現場任せ」が最も多い
「つながらない権利」は、時間外の連絡から離れるための考え方
「つながらない権利」は、メールやチャットでいつでも連絡が取れる状態から、働く人を守るという文脈で論じられてきた考え方です。10月14日の労働条件分科会では、働く人が安心して休める観点から、一部の国で法制化の例があることに触れたうえで、各企業が実態に応じて業務上の連絡のルールをはっきりさせることをどう考えるかが論点に挙がりました。
ルールを決めず、現場に任せている会社が36.8%
令和5年の「労働時間制度等に関するアンケート調査」(企業への複数回答)では、時間外や休日の社内連絡について「特段ルール等は整備しておらず、現場に任せている」企業が36.8%で最も多くなっていました。一方で、災害時などの緊急連絡を除いて連絡しない企業が29.4%、急ぎの業務に関する連絡だけを認める企業が27.1%と、ルールを決めている企業もあります。
働く人への調査では、時間外の社内連絡が「なかった」人が56.1%いる一方、出社せずに通信機器で対応した人が23.4%、出社したり取引先に出向いたりして対応した人が8.9%いました。合わせて約3割が、時間外や休日の社内連絡に実際に対応しています。
では、時間外の連絡は、誰が受けて、誰が送っているのでしょうか。
時間外の連絡を受ける・送る人の割合は、管理職で高い
部長職の約9割が、時間外に社内から連絡がくることがある
マイナビが2025年に転職した20〜50代の正社員1,446人に聞いた調査(2026年2月発表)では、勤務時間外に社内の人から業務連絡がくることがあると答えた人は70.0%でした。役職別に見ると、部長職が90.3%、課長職が89.8%、係長・主任が85.7%で、非管理職の55.5%を大きく上回っています。相手の内訳では、上司と部下の両方から連絡があるという回答が60.3%で最も多くなっていました。
ここで示されているのは、時間外に連絡が「くることがある」と答えた人の割合です。1人あたりの連絡の回数や件数ではない点には注意が必要です。
時間外に連絡を送ることがある人も、部長職で約9割
同じ調査で、勤務時間外に社内の人に業務連絡をすることがあると答えた人は69.6%でした。部長職では90.3%で、非管理職の43.7%の2倍を超えています。管理職は、時間外の連絡の受け手であると同時に、送り手でもあります。

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社外からの連絡も絡み、社内ルールだけでは閉じない
マイナビ調査の数字は、社内の人との連絡に限ったものです。分科会資料に整理されたこれまでの意見では、労働者側から、時間外の連絡は顧客と担当者の関係も含めた複合的な要因で生じるため、社内の取組だけでは実効が上がらないという意見が出ています。公益委員からも、休日や時間外の他社からの連絡が過度になると、カスタマーハラスメントにつながるおそれがあるという指摘がありました。
では、時間外の連絡は、休息にどう響くのでしょうか。
休息が長い日でも、仕事メールが多いと心理面の指標が悪い
資料では、労働安全衛生総合研究所(過労死等防止調査研究センター)の2つの観察調査が紹介されています。どちらも数十人から百人ほどを追った調査で、見えているのは関連であり、連絡が原因で心身の状態が悪くなったと確かめたものではありません。
IT労働者58人を1か月追った調査では、勤務間インターバルが長い場合、短い場合に比べて、疲労感や仕事からの心理的な切り離し、睡眠時間などの指標が良好でした。そのうえで、インターバルが短い場合は勤務時間外の仕事メールの頻度にかかわらず心理面の指標が悪く、インターバルが長い場合でも、仕事メールの頻度が高いと心理面の指標が悪くなっていました。情報通信業の98人を9日間追った調査では、在宅勤務の日は、オフィスで働いた日より時間外の連絡の頻度が高く、1回あたりの時間も長くなっていました。
休息の「長さ」を守る仕組みは、以前の記事(勤務間インターバル、「11時間は無理」にどう応えるか)で紹介しました。この調査からは、休息の「中身」も大切だと読み取れます。では、この中身を、法律でどう扱おうとしているのでしょうか。
時間外の連絡のルールを、法律でどこまで求めるか
「つながらない権利」を法律にするかどうかは、まだ議論の途中です。労働者側は法制化を求め、労使でのルールの協議を事業主の義務とする案も示しています。使用者側は一律の義務化に慎重です。法律の形がどうなるとしても、会社が先に決めておけるのは、何を緊急とするか、返事をいつまでに期待するか、社外からの連絡にどう応じるか、の3つだと考えます。
労働者側は法制化を求め、使用者側は一律の義務化に慎重
分科会資料に整理された意見では、労働者側は、顧客や取引先との関係を含めて社会全体の意識を変えるために、法制化に取り組むべきだとしています。あわせて、時間外の連絡に関するルールを労使で話し合って導入を検討することを、事業主の措置義務にする案も挙げました。使用者側は、時間外の連絡は働き方や仕事の進め方、指揮命令に関わる問題で、労働基準法で一律に義務化するのではなく、業務の実態を想定しながら議論すべきだとしています。まずはテレワークのガイドラインにある、メール送付の抑制やシステムへのアクセス制限といった内容を周知すべきだという意見も出ています。
フランスは、労使で決まらなければ会社が憲章を作る
フランスでは2016年の労働法典の改正で、労働組合の代表者がいる企業における労使交渉の事項に、つながらない権利が加えられました。合意に至らない場合は、使用者が従業員の代表機関である社会経済委員会(CSE)の意見を聞いて、権利の行使方法などを定めた憲章を作ります。法律は交渉の仕組みや憲章づくりなどを定めていますが、何時以降は連絡しないといった具体的な運用は、会社ごとに決める形です。
オーストラリアは、応じなくてよい範囲の判断材料を示した
オーストラリアでは、時間外の連絡を、拒否が不合理でない限り、見ない・読まない・返事をしない権利が定められています。小規模事業者にも2025年8月26日から適用されました。対象には、顧客や取引先など第三者からの連絡も含まれます。不合理かどうかは、連絡の理由、連絡の方法と負担の大きさ、待機や時間外の対応に対して報酬がどの程度支払われているか、役割と責任の程度、家族の世話などの事情を踏まえて判断します。定められているのは、働く人が時間外の連絡に応じることを拒否できる権利です。
では、会社はこの3つを、どう決めればよいのでしょうか。
筆者の考え:送る側のルールから決めてみる
時間外に連絡を送ることがある人の割合は、部長職で9割を超えていました。受ける側に「応じなくてよい」と伝えるだけでは、上司からの連絡に応じないのは難しい場面もあるのではないでしょうか。送る側が何なら送ってよいかを決めておく方が、受ける側も安心して休めるのではないでしょうか。
緊急の定義を、言葉で決める
一案として、時間外に連絡してよい「緊急」を言葉にしてみてはいかがでしょうか。たとえば、顧客や社員の安全に関わること、大きな損失につながることなどです。それ以外は翌営業日でよいと明記しておくと、送る側も迷わずに済みます。
返事をいつまでに期待するかを、書き添える
時間外に送るなら、返事をいつまでに期待しているかを本文の最初に書く方法があります。「返信は翌営業日で大丈夫です」の一言や、予約送信を使うことで、受け取った人がその場で対応しなくてよいと分かります。
社外からの連絡への応じ方を、先に伝える
社外からの連絡は、社内のルールだけでは止められません。対応できる時間帯を取引先に伝えておく、時間外の自動返信で次に対応する日と緊急時の連絡先を案内する、といった方法が考えられます。オーストラリアが判断の材料に挙げた待機や時間外の対応への報酬のように、時間外に応じてもらう役割の人には、その分の扱いを決めておくことも一案です。
休息の長さを守る仕組みと、休息の中身を守るルールは、セットで考えることが大切ではないでしょうか。参考にしてもらえる場面があれば幸いです。
【セルフチェック】時間外の連絡の5項目
この記事の考え方を、自社の連絡の仕方に当てはめてみるためのチェックリストです。正解を出すためのものではなく、立ち止まって考えるためのもの。気になった項目だけ拾ってもかまいません。各項目に、考えるときの手がかりを一言ずつ添えました。
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時間外の連絡について、現場任せにせず会社としてのルールがあるか緊急時以外は連絡しない、などの決め方
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何を緊急とするかを、言葉で決めているか安全、大きな損失など
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管理職が時間外に連絡を送ることが、どのくらいあるか分かるかチャットやメールの送信時刻
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返事をいつまでに期待するかを、書き添える習慣があるか予約送信、翌営業日の明記
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社外からの時間外の連絡に、どう応じるかを伝えているか対応時間の案内、自動返信
用語メモ
本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。
▶ 措置義務
事業主に、一定の対応を講じることを義務づける規定です。結果まで求めるのではなく、必要な手立てを取ることを求めます。
▶ 公益委員
労働政策審議会で、労働者側・使用者側の委員とは別に、学識経験者などから選ばれる委員です。
▶ 観察調査
働き方などを変える介入をせず、ふだんの状態を記録して関係を調べる調査です。関連は分かりますが、何が原因かまでは確かめられません。
※本記事は2026年10月23日時点で公表されている労働政策審議会の資料、調査、各国の公的機関の情報をもとにまとめたものです。「つながらない権利」の法的な扱いは議論の途中で、決まったものではありません。海外の制度は概要で、詳細は各国の公的機関の情報をご確認ください。