仕事を終えてから次の日の仕事を始めるまで、何時間空いているでしょうか。2026年10月14日の労政審で、法的な位置付けを含めて改めて論点に挙がった勤務間インターバルについて、導入した会社が「守れない日」にどう向き合っているかから読み解きます。
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勤務間インターバルを導入している企業は、まだ6.9%
終業から次の始業まで、休息の時間を確保する仕組み
勤務間インターバルは、終業時刻から次の始業時刻までの間に、一定時間以上の休息を確保する仕組みです。今は労働時間等設定改善法で、事業主の努力義務とされています。2026年10月14日の労働政策審議会・労働条件分科会では、この制度の「法的位置付け」を含めて、どのような措置を講じるべきかが論点に挙がりました。同じ時期の労政審では、男性育休の取得期間(男性育休は「取得率」から「取得期間」へ)や、学び直しを処遇につなげる仕組み(リスキリングは「受講」から「処遇」へ)も議論されています。
導入企業は6.9%で、国の目標の15%に届いていない
厚生労働省の就労条件総合調査(令和7年、常用労働者30人以上の民営企業が対象)では、導入している企業は6.9%、導入を予定・検討している企業は13.8%でした。平成29年の1.4%からは増えていますが、過労死等防止対策大綱が掲げる、令和10年度までに導入企業の割合を15%以上とする目標には届いていません。
大企業ほど、運用の壁を理由に挙げる
予定も検討もしていない企業の理由で最も多いのは、残業の機会が少なく必要性を感じないという理由(57.3%)です。残業の少ない会社が要らないと考えるのは自然なことで、労働者側の委員も、導入率の低さは義務化が難しい理由にはならないと述べています。
目を向けたいのは、1,000人以上の企業の答えです。予定も検討もしていない理由として、労働時間の管理が煩雑になる(23.2%)、人員不足や仕事量の多さで業務に支障が出る(21.0%)、夜間も含めて常に顧客への対応が必要(20.3%)を挙げる割合が、企業全体の2倍以上になっています。
では、すでに導入した会社は、こうした壁を越えられているのでしょうか。
入れている会社でも、休息を守れない日がある
1,000人以上の導入企業では、約6割で守れない社員がいた
厚生労働省が導入企業に行った実態調査(令和6年、396社が回答)では、2024年9月にインターバルを確保できなかった社員がいた企業は、回答した導入企業全体の18.0%でした。1,000人以上の導入企業に絞ると、59.7%に上ります。
確保できなかった社員がいた企業のうち、39.8%(1,000人以上では49.4%)は特に措置を講じていませんでした。上司との面談で仕事の配分を見直す企業は27.4%、代替休暇を取らせる企業は5.6%です。
守れない理由は、社内の突発トラブルや期限のある仕事
働く人への調査では、確保できなかった理由として、社内の緊急・突発的なトラブル、限られた期間で終える必要のある業務、クレームや急な仕様変更など顧客や取引先への対応、繁忙期、自然災害が挙がっています。いずれも、本人の努力だけでは避けにくい事情です。
決めている休息の時間は、業種で大きく違う
導入企業が決めている時間は「11〜12時間未満」が35.8%で最も多く、12時間以上を合わせると約45%が11時間以上です。EU指令やフランス、ドイツが原則とする1日11時間の休息と同じ水準の会社も多いことが分かります。
ただし業種による差は大きく、金融・保険では「11〜12時間未満」が64.0%ある一方、宿泊・飲食サービスでは「9〜10時間未満」が70.7%です。短めの時間を設定している業種もあります。
では、守るのが難しい職場で、導入した会社はどう工夫しているのでしょうか。
導入企業は、5つの工夫で「無理」に応えている
制度が要る会社が困っているのは、顧客への対応、人手の不足、労働時間の管理の手間です。厚生労働省が紹介する導入企業の事例を見ると、この壁に応える工夫は、例外となる業務と手続きを先に決める、職種ごとに時間を変える、守れなかった翌日の扱いを決める、休息の時間を見える化する、チームで仕事を補い合う、の5つに整理できます。

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以下の事例は、厚生労働省の「勤務間インターバル制度導入・運用マニュアル」に掲載されたもので、従業員数などは掲載当時の情報です。
例外となる業務と、事前申請の手続きを決める
ソフトバンク(約17,100人、2019年3月時点)は、10時間以上の休息を全従業員に適用しています。ネットワークの障害対応や大規模なシステムリリースなど、限られた期間で終える業務は例外にしたうえで、本人が事前に申請し、上司が承認する仕組みにしています。田辺三菱製薬(約4,000人、2019年9月時点)も、海外との会議、大規模災害、当局の指示などを適用除外にし、それ以外の場合は事前申請としています。
職種ごとに、休息の時間を変える
田辺三菱製薬は、MR職は9時間、それ以外の職種は11時間と、職種で時間を分けています。従業員からは、少しだけオーバーしそうな日はその日の仕事を早めに切り上げて翌日に回すようになった、という声も出ています。
守れなかった翌日の扱いを、決めておく
旅館の奥州秋保温泉蘭亭(89人、2024年3月時点)は、管理職を含む全従業員に11時間を適用し、確保できなかった日は所属長と話し合って翌日の始業をずらします。北陸コンピュータ・サービス(約600人、2019年12月時点)は10時間の休息を定め、休息と翌日の所定労働時間が重なる部分を、働いたものとみなしています。
導入企業全体でも、休息を確保するために翌日の始業・終業時刻を後ろ倒しする扱いが39.4%で最も多くなっています。ただし公益委員からは、この後ろ倒しは働く人のワーク・ライフ・バランスにマイナスになるため、ほかの望ましい方法も周知すべきという意見が出ています。
休息を見える化し、チームで補い合う
ソフトバンクでは、休息が確保できないと本人の画面にアラートが出て、理由を入力し上司が承認します。上司の画面では、部下の休息が10時間を切ると色が変わります。制度の導入によって、10時間以上を確保できない従業員はほとんどいなくなったそうです。
米菓製造の日の出屋製菓産業(341人、2022年4月時点)は、9時間の休息を全員が守れるよう、情報共有と仕事の属人化の解消を進めました。少しずつチームで補い合う体制に変わってきており、人材育成にもつながったといいます。
では、義務化の議論は、こうした工夫をどう扱おうとしているのでしょうか。
義務化の議論は、時間数と例外の設計で分かれている
労働者側は11時間の義務化を、使用者側は各社の方法を求めた
労働者側は、諸外国の原則が11時間であることを踏まえ、11時間の義務化を検討すべきとし、代わりの措置などの例外は限定的にするよう求めています。使用者側は、画一的な「原則11時間」に反対し、各社の多様な方法を認めるよう求めています。時間外労働の上限規制が入ったことから、一律の義務化は時期尚早で、初めから罰則付きにせず、猶予期間や経過措置を設けて段階的に進めるべきという立場です。発注元の急な要請に対応する中小企業では、一律に求めるのは難しいという意見もあります。
公益委員からは、労働基準法に入れて義務化するのが適切だが実現は容易ではないという意見や、今の抽象的な努力義務を具体的にする、配慮義務にするといった方法もあり得るという意見が出ています。
研究会は、11時間と例外の組み合わせを複数示した
議論の土台になっている労働基準関係法制研究会の報告書は、たとえばとして3つの考え方を挙げています。11時間を原則にしつつ、適用除外の職種や確保できなかった場合の代替措置を柔軟にする考え方、11時間より短くしつつ柔軟な対応は絞る考え方、そして経過措置を設けて全面施行までに期間を置く考え方です。代替措置は、健康観察や面接指導のような事後のモニタリングではなく、代償休暇など「労働からの解放」を確保するものが望ましいという考え方も示されています。
ここで区別しておきたいのは、「守らなくてよい場面を決める例外」と、「守れなかった分の休息を後から取り戻す補い方」です。導入企業の運用は両方を含んでいますが、各社の運用が、そのまま将来の法律で認められる例外になるとは限りません。
では、法律の形が決まる前に、会社は何から考えておけばよいのでしょうか。
筆者の考え:守れない日のルールを、先に書いておく
義務化の制度設計がどうなるとしても、自社の実態をつかみ、「守れない日」の運用ルールを先に検討しておく意義はあると考えます。導入企業の工夫は、まさにそこを言葉にしたものでした。
一案として、まず勤怠の記録から、終業から次の始業までの時間を出してみてはいかがでしょうか。守れていない日が、どの職種や部署に集中しているかが見えてきます。そのうえで、例外にする場面と承認する人、守れなかった翌日の扱いを決めておくと、法律の議論にも自社の事情で向き合えます。守れなかった後は、面談だけで終わらせず、休める時間で取り戻す方向で考えておくと、研究会の考え方とも合います。翌日の始業を後ろにずらす場合は、終業も後ろにずれて家庭の時間が削られないかも合わせて見ておくと安心です。
もう一つ、休息は長さだけでなく、その時間に本当に仕事から離れられているかも大切です。時間外の連絡については、同じ分科会で論点に挙がった「つながらない権利」を別の記事(「つながらない権利」は法律になるのか)で読み解いています。参考にしてもらえる場面があれば幸いです。
【セルフチェック】勤務間インターバルの5項目
この記事の考え方を、自社の働き方に当てはめてみるためのチェックリストです。正解を出すためのものではなく、立ち止まって考えるためのもの。気になった項目だけ拾ってもかまいません。各項目に、考えるときの手がかりを一言ずつ添えました。
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終業から次の始業まで、実際に何時間空いているかを出せるか勤怠の記録から計算できるか
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休息が短い日が、どの職種や部署に集中しているか分かるか顧客対応や期限のある仕事
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守らなくてよい場面を、事前に決めているか誰が承認するかも含めて
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守れなかった翌日の扱いが決まっているか休息で取り戻す方法と、後ろ倒しの影響
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全社一律の時間にこだわっていないか職種ごとに分ける選択肢
用語メモ
本記事に登場する専門用語をまとめました。▶ をクリックすると説明が表示されます。
▶ 努力義務
「〜するよう努めなければならない」と定める規定です。守らなくても罰則はありません。勤務間インターバルは、労働時間等設定改善法で事業主の努力義務とされています。
▶ 代替措置
決めた休息の時間を確保できなかったときに、代わりに講じる措置です。代償休暇のように休息を取り戻す方法が考えられます。企業では面談や健康観察などの事後の対応も行われていますが、労働基準関係法制研究会は、法制度上の代替措置としては「労働からの解放」を確保するものが望ましいとしています。
▶ 公益委員
労働政策審議会で、労働者側・使用者側の委員とは別に、学識経験者などから選ばれる委員です。中立の立場から意見を述べます。
▶ 労働基準関係法制研究会
労働基準法などの見直しの方向を検討するため、厚生労働省が設けた有識者の研究会です。その報告書が、労政審での議論の土台になっています。
※本記事は2026年10月22日時点で公表されている労働政策審議会の資料をもとにまとめたものです。勤務間インターバルの法的な位置付けは議論の途中で、決まったものではありません。企業事例は厚生労働省のマニュアル掲載時点の情報で、現在の運用とは異なる場合があります。自社での制度設計にあたっては、専門家にご相談ください。