この記事は2本シリーズの後編です。前編をまだお読みでない方は、先に前編をご覧いただくとスムーズに理解できます。
▶ 前編:現行制度を正確に知る ― 遺族厚生年金、今どうなっているか
前編では、現在の遺族厚生年金制度が抱える3つの不公平を整理しました。
・夫55歳未満は、妻を亡くしても受給不可
・中高齢寡婦加算は妻にしかつかない
・寡婦年金も妻にしかつかない
「5年で打ち切り」という見出しだけを見ると改悪に聞こえますが、本質は長年放置されてきた男性への不公平を是正し、制度を男女平等に近づけた点にあります。
後編では、何がどう変わるのかをBefore/Afterで整理します。影響を受ける人・受けない人も確認していきます。
Contents
改正の全体像——「廃止」ではなく「是正」
まず、改正の経緯を整理します。
2024年7月:厚生労働省が社会保障審議会年金部会で見直し案を提示
2025年5月:「年金制度改正法案」を第217回通常国会に提出
2025年6月13日:衆議院で修正のうえ成立(令和7年法律第52号)
2028年4月:施行予定
法律はすでに成立しており、2028年4月施行が確定しています。
改正の骨子は、ひとことで言えば「60歳未満で死別した子のない配偶者への遺族厚生年金を、男女共通で原則5年の有期給付にする」というものです。
女性は「段階的に」、男性は「2028年4月から一斉に」適用されます。この非対称さにも理由があります(後述)。
Before/After早見表——一目でわかる変化のまとめ
改正前後を一覧で整理します。
| ケース | 改正前(現行) | 改正後(2028年〜) | 変化 |
|---|---|---|---|
| 妻・子あり(18歳年度末まで) | 終身受給 | 子が18歳年度末まで:現行と同じ その後5年間:有期給付加算あり |
ほぼ現状維持 (子育て期は同じ) |
| 妻・子なし・2028年度に40歳以上 | 終身受給 | 変わらず終身受給 | 影響なし |
| 妻・子なし・2028年度末時点で40歳未満 年収850万未満 |
終身受給 | 5年有期(1.3倍) →継続給付あり |
マイナス (補填あり) |
| 妻・子なし・2028年度末時点で40歳未満 年収850万以上 |
受給不可 (年収要件アウト) |
年収要件撤廃→5年有期受給可能 | プラス |
| 夫・子あり(18歳年度末まで) | 55歳以上のみ (子がいれば55歳未満でも可) |
子が18歳年度末まで:現行と同じ その後5年間:有期給付加算あり |
プラス |
| 夫・子なし・60歳未満 | 受給不可 | 5年有期(1.3倍)受給可能! | 大幅プラス |
| 夫・子なし・60歳以上 | 60歳から終身受給 | 変わらず | 影響なし |
表を見るとわかるように、改正でマイナスになるのは「子なし・2028年度末時点で40歳未満・年収850万未満の妻」だけです。それ以外はプラスか現状維持です。
「影響を受けない人」を正確に確認する
厚生労働省(2025年6月30日更新)が公式に示している「影響を受けない方」は以下の4つです。
①既に遺族厚生年金を受給している方
施行日(2028年4月)前に受給権が発生している遺族厚生年金は、現行制度の仕組みをそのまま維持します。
②60歳以降に遺族厚生年金の受給権が発生する方
60歳以上で死別した場合は、男女ともに改正後も無期給付(終身)のまま変わりません。
③18歳年度末までの子を養育する間にある方の給付内容(子育て期間中は現行と同じ)
子どもが18歳年度末を迎えるまでの期間は、現行制度と同じです。ただし子が18歳年度末を超えた後は、さらに5年間の有期給付(加算あり)+継続給付の対象となります。
④2028年度に40歳以上になる女性
女性については20年かけて段階的に移行するため、2028年度に40歳以上になる女性(=1989年3月31日以前に生まれた女性)は現行制度が維持されます。
注意:③は「影響なし」ではなく「子育て期間中は影響なし」
よく誤解されるポイントです。
子がいる場合でも、子が18歳年度末を超えた後は5年の有期給付になります。
つまり「子育て中は変わらない。子が巣立った後は変わる」という理解が正確です。
ただし、子が18歳年度末を超えた後の5年間は有期給付加算(1.3倍)が上乗せされ、さらに収入が少なければ継続給付も受けられます。子が巣立った後に夫が亡くなっているケースでは、この5年間が生活再建の期間として設計されています。
注意:④は「2028年4月時点」ではなく「2028年度に」
厚労省の公式な表現は「2028年度に40歳以上になる女性」です。「2028年4月1日時点で」ではないため、2028年度中(2028年4月〜2029年3月)に40歳の誕生日を迎える方も含まれます。
つまり、1989年3月31日以前に生まれた女性が対象です。
女性はどうなるか——段階的移行の仕組みを理解する
女性への適用が「20年かけて段階的」とされているのには理由があります。
現在すでに終身受給を前提に生活設計している女性に突然の制度変更を適用することは、生活基盤を揺るがすリスクがあります。そのため政府は、現行制度を前提に生活設計している人への配慮として、段階的な移行を選択しました。
2028年4月時点での女性への適用範囲:
- 施行直後に有期給付の対象となるのは「18歳年度末までの子がいない、2028年度末時点で40歳未満の女性」
- 新たに対象となる30代の女性は推計で年間約250人(厚労省推計)
- その後20年かけて、有期給付の対象年齢を段階的に引き上げ、最終的に60歳未満まで拡大
つまり今の30代・40代・50代の女性への影響は、以下の通りです:
| 2028年度の年齢(女性・子なし) | 2028年4月の影響 |
|---|---|
| 40歳以上 | 影響なし(現行制度維持) |
| 30〜39歳 | 有期給付(5年)の対象に(新たに約250人/年) |
| 20代 | 現行制度でもすでに5年有期のため変化なし |
男性はどうなるか——今回の改正の主役
今回の改正で最も大きな変化を受けるのは、実は男性です。
現行制度では「55歳未満の子なし夫」は受給不可でした。改正後は、60歳未満の子なし夫が一律に5年間の有期給付を受けられるようになります。
対象者は推計で年間約1万6千人(厚労省推計)。女性の新規対象者(約250人)と比べて圧倒的に多く、制度改正の恩恵を受ける人数は男性が大部分を占めます。
男性への適用は女性と異なり、2028年4月から一斉に実施されます。
なぜ男性は段階的ではないのか。それは、現行制度で男性は「もらえていなかった側」だからです。既存の受給者への配慮は不要であり、一斉適用が可能です。
マイナスになる人への補填——「5年で終わり」は本当か
マイナスの影響を受ける「子なし・2028年度末時点で40歳未満・年収850万未満の妻」に対して、3つの補填措置が用意されています。
補填①:有期給付加算(5年間は現行の1.3倍)
5年間の有期給付中は、現行の遺族厚生年金に「有期給付加算」が上乗せされ、受取額は現行の約1.3倍になります。
具体的には、亡くなった配偶者の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の1に相当する額が加算されます。つまり従来の「3/4」から「4/4=100%」相当になるイメージです。
補填②:継続給付(5年後も収入が低ければ続く)
5年の有期給付が終了した後も、収入が少ない方は最長65歳まで受給が継続されます。
就労収入が月額約10万円(年間122万円)以下 → 継続給付が全額支給
収入が増えるにつれて段階的に減額される仕組み
概ね月収20〜30万円を超えると → 継続給付は全額支給停止
つまり、「5年で打ち切り・無一文」ではなく、収入が低ければ65歳まで支援が続く設計になっています。
補填③:死亡時分割(65歳以降の老齢厚生年金が増える)
新たに導入される「死亡時分割」制度により、婚姻期間中に亡くなった配偶者の厚生年金記録を遺族の老齢厚生年金に上乗せできるようになります。
離婚時の年金分割と同じような発想で、65歳以降に自分が受け取る老齢厚生年金が増えるため、長期的な生活保障が強化されます。
中高齢寡婦加算は段階的に廃止へ
一方で、補填と逆方向の変化もあります。
現行制度で40〜65歳の妻に上乗せされていた中高齢寡婦加算(年額635,500円・2026年度)は、2028年4月以降に新たに発生する加算について、25年かけて段階的に縮小・廃止されます。
ただし、施行日前からすでに加算を受け取っている妻は影響を受けません。また、5年の有期給付の対象となる妻は、有期給付加算(1.3倍)に加えて中高齢寡婦加算も受給できます。
遺族基礎年金の改正——子のいる家庭への手当が厚くなる
今回の改正は遺族厚生年金だけでなく、遺族基礎年金にも重要な変更が加わります。
①子の加算額が増額(現在受給中の方も対象)
遺族基礎年金の子の加算額が、2028年4月から引き上げられます。
| 現行(2026年度価格) | 改正後 | |
|---|---|---|
| 1人目・2人目の加算 | 各年額243,800円 | 各年額281,700円 |
| 3人目以降の加算 | 各年額81,300円 | 各年額281,700円(同額に) |
この増額は、現在受給中の方も対象です。
②支給停止要件の緩和——「親の事情で子が受給できない」問題の解消
現行制度では、親の事情(再婚・高収入・養子縁組)によって子どもが遺族基礎年金を受給できないケースがありました。改正後はこれらが解消されます。
- 親が再婚した場合でも、子は遺族基礎年金を受給できる
- 親の年収が850万円以上でも、子は遺族基礎年金を受給できる
- 離婚した元配偶者に子が引き取られた場合も、受給できる
つまり「子どもには責任のない親の事情で、保障が断たれる」問題が是正されます。
人事担当者が2028年に向けてすべきこと
2028年4月まで約2年。今のうちに準備できることがあります。
-
社員への制度周知を検討する→ 特に30代・子なしの社員は影響を受ける可能性がある。「自分ごと化」の機会として、福利厚生説明に組み込む
-
死亡退職時の案内フローを見直す→ 遺族への案内内容が変わる。「子がいるか」「年齢」を確認するフローを更新しておく
-
2028年4月以降の最新情報を追う→ 厚労省公式サイト・日本年金機構の更新情報を定期確認。実務レベルの詳細は施行に近づくにつれて明確化される
筆者の所感
「5年で打ち切り」という報道の見出しは、ある意味正確ですが、とても不誠実だと思っています。
なぜなら、その見出しだけでは「今まで55歳未満の夫は一円ももらえなかった」という事実が隠れてしまうからです。
改正の本質は、「手厚すぎた一部の保護を削減した」のではなく、「不当に冷遇されていた男性にも保護を広げた」というものです。方向性は正しいと考えます。
ただし、マイナスになる人がいることも事実です。「子なし・40歳未満・年収850万未満の妻」にとっては、終身受給という安心感が失われます。補填はあるものの、生涯受取額は減るからです。
その現実を受け止めた上で、「では自分の場合、どう備えるか」を考えることが大切だと思います。iDeCoの活用、生命保険の見直し、そして何より「制度を正確に知ること」が最初の備えです。
これからも一緒に学んでいきましょう
用語メモ
▶ をクリックすると説明が表示されます。
有期給付加算
継続給付
死亡時分割
中高齢寡婦加算の段階的廃止
子の加算増額
出典・参考情報
社会経済の変化を踏まえた年金制度の機能強化のための国民年金法等の一部を改正する等の法律(令和7年法律第52号)
厚生年金保険法(第58条・第62条)
国民年金法(第37条・第37条の2)
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の法的助言ではありません。具体的な判断が必要な場合は、社会保険労務士等の専門家にご相談ください。制度は改正される場合があります。最新情報は厚生労働省・日本年金機構等の公式情報をご確認ください。